第九十三話 朝廷への参内その二
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彼等は口々にだ。こう言い合った。
「おお、礼装も青か」
「何もかもを青で一つにしておるわ」
「これはまた見事じゃ」
「奇麗なものじゃ」
こう口々に言うのだった。信長達を見て。
とりわけ彼等の中心にいる信長を見てだ。彼等は言った。
「お顔立ちがよいのかのう」
「ああして礼装になられると気品があるな」
「そうじゃな。見事な方じゃ」
「傾いておられるだけではないな」
次第にだ。信長の奇矯な振る舞いや身なりについても多くの者がわかってきた。それは傾いていたのだ。信長が傾奇者とわかってきたのだ。
しかし今の信長は傾いていなかった。見事な礼装だ。そしてその礼装もまた、だった。
「ふむ。あの身なりならな」
「天下人に相応しいのう」
「これまではまぐれだと思っておったが」
「三好様を四国に追い出し播磨も丹波も手に入れられた」
「どうやら真に凄い方じゃな」
「その様じゃな」
そのことがわかってきたのだった。都の者達も。それで信長を見て言っていた。そしてその彼等の言葉を聞いてだ。織田家の家臣達も言うのだった。
「やっとわかったようじゃな」
「うむ、そうじゃな」
「殿の凄さがわかったな」
「その様じゃな」
実に誇らしげな言葉だった。
「よいことじゃ。そしてこれからじゃ」
「いよいよ帝の御前じゃな」
「参内じゃな」
「よいな、御主等」
林が彼等に言ってきた。共に馬に乗りながら。
「くれぐれもじゃぞ」
「粗相のない様に、ですな」
「その様に」
「そうじゃ。それはじゃ」
林の口調はいつも以上に厳しい。
「わかったな。若し居眠りなぞすれば」
信長以上にだ。林の方が怖かった。彼はすごんだ顔になり今にも腰の刀に手をかけんばかりだった。そのうえでこう言うのだった。
「容赦はせぬ」
「それはわかっています」
「我等も」
「ならよい。では行くとしようぞ」
「ははは、新五郎は厳しいのう」
ここで信長が笑って林に言ってきた。
「そう言うか」
「いえ、こうしたことは念を押さねばなりませんぞ」
「それはその通りじゃがな」
「しかしというのですか」
「御主はまた厳し過ぎるな、今回は」
「まことに粗相があればどうしようもないので」
それでだと述べる林だった。信長に対しても。
「それこそ織田家の末代までの恥」
「そしてわしの恥じゃというのじゃな」
「左様です」
こう言うのだった。
「その通りでございます」
「まあそういう奴も流石におらぬじゃろう。気つけに茶も飲んだしな」
だから余計にだというのだ。
「安心してよかろう」
「だといいのですが」
「さて。それではじゃが」
「間も無くですな」
大路の先に見えてきた。その御所が。
その御所の門を見ながらだ。林は信
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