第九十二話 凱旋の後その十三
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「しかしそれでもじゃ」
「織田家に入られますか」
「そうされますか」
「今の殿はどう思うか」
彼等に直接だ。信長についての感情を問うたのだった。
「あの殿はどうか」
「確かに。我等にとって喜ばしい御仁ではありませぬが」
「しかしそれでもですな」
「どうも惹かれるものがあります」
「人を魅了してやみませんな」
「そうじゃ。面白い方じゃな」
こう確認するのだった。彼等の部屋の中で。
「そうじゃな」
「はい、非常に」
「だからこそですか」
「それで織田家に入ると」
「そう仰るのですか」
「そういうことじゃ。魔界衆だからといって楽しんでならぬとは長老も仰っておらぬ」
松永はこう家臣達に話す。
「無論掟にもそうしたことは一切書いておらぬ」
「確かに。そうしたことはですな」
「誰も仰いませんし掟にもありませぬ」
「魔界衆の掟は絶対ですが」
「それでもですな」
「だからじゃ。楽しめばよいのじゃ」
笑みさえ浮べてだ。松永は話す。
「そうせよ。よいな」
「ううむ。魔界衆であってもですか」
「これまでの。三好家におった頃とは違いですか」
「楽しめと仰いますか」
「織田家の中で」
三好家にいた頃は彼等はその中を侵食していっていた。それはまるで毒水が少しずつ身体の中に入っていく様なものだった。彼等はそうして三好家の中にあってその主家を凌ぐ程になっていたのだ。
だが織田家の中ではだ。松永はこう言ったのである。
「わかったな。楽しむのじゃ」
「殿がそれでよいと仰るのならいいですが」
「我等に異存はありませぬ」
「ではその様にいたしますので」
「殿と共に」
「そうせよ。さて、それではじゃ」
ここまで話してだ。松永はあらためて言ってきた。その言う言葉は。
「後は休むとするか」
「寝ますか」
「では」
「御主等も風呂は入ったであろう」
信長が命じたその風呂にだというのだ。
「身は清めたな」
「はい、それは存分に」
「何処もかしこも洗ってきました」
家臣達もここでは笑って返すことができた。それを受けてだ。
松永は確かな笑みになり彼等にあらためて告げたのだった。
「では休もうぞ」
「そして明日はですな」
「朝廷ですな」
「殿のお供じゃ」
信長の参内についてだった。彼のその中の一人に選ばれたのだ。
「それで行く。御主等は待っておれ」
「陰陽師がいなければいいですな」
家臣の一人が不意にこんなことを言ってきた。
「おれば気付かれる恐れがあります」
「確かに。あの者達は朝廷におります故」
「帝の傍にいればです」
「危険ですな」
「何、案ずることはない」
松永は懸念する彼等に確信の声で返した。
「わしを探ることはできぬ」6
「それだけ上手く隠れる
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