第九十二話 凱旋の後その十
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「平手殿はわし等より遥かに前から戦場を駆け巡っておられるからな」
「それはもう凄いぞ」
「全身至るところ傷だらけじゃ」
「恐ろしいまでにあるぞ」
「そういえば平手殿も長い間戦場を駆け巡っておられましたな」
「近頃ではそうではありませんが」
原田と中川もこのことを思い出して述べた。
「それでご自身で槍や刀を振るっておられましたな」
「そうした方でしたな」
「そうじゃ。だからその傷も凄いぞ」
「戦の数だけの傷があるわ」
柴田と佐久間は笑いながら平手のことを話していく。見れば林兄弟もその身体には多くの傷がある。むしろ傷のない者なぞ一人もいなかった。
それは松永も同じでだ。風呂場の隅で身体を洗う彼を見てだ。真木がこっそりと佐久間信直に囁いた。
「あの御仁、やはり」
「そうじゃな。かなり多くの傷があるな」
「それだけ悪しきことをしたということでもあるな」
「あの御仁の場合はな」
とかく松永は陰謀の印象が強い。そのうえでのことだというのだ。
このことを話してだ。そのうえで松永を見るのだった。確かに松永の傷は多い。だが、だった。
「しかし。その傷は」
「うむ、前からのものが多いな」
「後ろからの傷は思ったより少ない」
「そうじゃな」
二人はこのことに気付いたのだった。
「向こう傷が多いとは」
「あの御仁にしては珍しい」
「てっきり後ろからの傷ばかりと思うたが」
「違うのう」
「どうせあれであろう」
二人にだ。万見が囁いて来た。見れば三人共松永を警戒する目で見ている。そしてそのうえで三人でひそひそと話をしているのである。
「闇討ちばかりじゃしそれに毒もあろう」
「そうじゃな。毒もあったな」
「罠もあるし己でやらぬこともできる」
即ち刺客送るというのだ。
「だから手を汚さぬ場合もあるな」
「そういうことじゃな」
「そうじゃ。若しもじゃ」
万見は剣呑な顔で真木と信直に話したのだった。
「おのおの方もよいな」
「うむ、少しでもおかしなところがあれば」
「その時はじゃな」
「容赦せぬでおこう」
即ち斬るというのだ。彼等もその機会を窺っていたのだ。
そうした話をしながらだ。三人は身体を洗いつつ松永を剣呑な目で見据えていた。だが松永はその彼等に気付いたのか気付かぬのか。
やがて身体を洗い終えて桶で湯を浴びてそれからだ。風呂場を後にしたのだった。
その彼の背を見てだ。また言う三人だった。
「絶対に怪しいがのう」
「そうじゃな。あれはまさに蠍じゃ」
「油断をすると毒針で刺す」
こうした話をしていた。だが、だった。
その彼等のところにだ。不意に羽柴が来てこんなことを言ってきた。
「何の話をしておるのじゃ」
「あっ、これは羽柴殿」
「どうしてここに」
「
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