第九十二話 凱旋の後その八
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「それだけか。それができれば違うというのにな」
「興味がありませぬから」
「残念なことじゃ」
「いえいえ、政は叔父御も好きですし」
「わしがか」
前田もここで話に入ることになるところだったがそれよりもだった。
信長はその前田にだ。こんなことを言った。
「又左、御主が家を継ぐことになるがのう」
「わしは四男坊ですが」
「こ奴が家督は嫌だというのじゃ」
信長も慶次を見た。彼は前田家の長男の血筋なのだ。ただしだ。
慶次は自分からだ。こう言うのだった。
「わしは養子ですから」
「しかし御主は兄上の子じゃぞ」
前田もバツの悪い顔になって自分の甥に返した。
「それではわしは分家として家を立てるのが道理であろう」
「まあ。ですからわしは家督には興味がありませぬ」
「では傾き続けるというのか」
「左様です。家督なぞ継いでは堅苦しくて仕方ありませぬ」
「全く。おかしなことを言う奴じゃ」
「しかしよいではないか」
前田と親しい佐々が笑って憮然とした顔になり首を捻る前田といつも通り明るくその大きな口を開けて笑っている慶次の間に入ってこう述べた。
「それが慶次らしいわ」
「わしも傾いておるがな」
「それはそうじゃがな」
「しかし前田家はわしが継ぐことになるのか」
「御主の方が合っておるのは確かじゃな」
信長の目は確かだった。ここでも。
「それもある。前田家は御主じゃ」
「畏まりました。それでは」
「後は。御主達じゃな」
信長は今度は明智達を見た。幕臣であるが彼等は織田家の面々の中に入っていたのだ。
その彼等に対してだ。信長はこう言ったのである。
「明日もじゃが」
「明日も、といいますと」
「それからもですか」
「美濃まで共に来てくれるか」
こう言うのだった。その明智達に。
「そこで論功をしたいがのう」
「美濃までですか」
「我等も」
「そうじゃ。公方様にはわしから申し上げておく」
そのうえでだというのだ。
「そのうえでじゃ。よいか」
「信長様さえ宜しければ」
「それで」
「うむ、頼むぞ」
信長は確かな声でまた彼等に告げた。
「その様にな」
「では美濃までお供させて頂きますので」
「その様に」
「他の幕臣の面々にも伝えてくれるか」
すかさずといった感じだった。信長は明智達にこうも言ってきたのだった。
「供に美濃まで来てくれるのなら迎えるとな。公方様さえよければ」
「他の方々もですか」
「そうじゃ」
その通りだとだ。信長は明智達にまた言った。
「そう伝えてくれるか」
「畏まりました。ではそのことも」
「お伝えします」
「そうしてくれるか。では今宵は早く休むとしよう」
信長は明智達に話してからこの場をお開きとした。
「戦で疲れておろ
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