第九十二話 凱旋の後その三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
そしてその見事な馬の鞍からだ。都の民達に手を振って言うのだった。
「はっはっは、このだいふへんものも帰ったぞ」
「何と、大武辺者とな」
「また大きく出たのう」
「何ということを言うのじゃ」
そのだいふへんものを武辺と思いだ。都の民達はまずは驚いた。
しかし慶次はその彼等に笑ったままこう返した。
「いやいや、わしは武辺ではないぞ」
「では何じゃ?」
「何というのじゃ?」
「大不便者じゃ」
それだというのだ。
「戦場以外では何の役にも立たぬ。まさに大不便者じゃ」
「おお、それを自分から言うか」
「またこれは面白い」
「傾くか」
「左様、算盤も使わぬぞ」
算盤を学びだしている叔父のことも言うのであった。
「いやいや、こんな不便者はおらんぞ」
「御主はそもそも政とかを学ばんだけじゃ」
その慶次にだ。金森が顰めさせた顔で言った。
「全く。槍と風流だけか興味があるのは」
「どうも好きなこと意外はできませぬ」
「だからだというのか」
「そうです。それがしは不便者でございます」
「政も学べば出来るぞ」
「しかし学ぶ気がそもそもありませぬ」
「それでか。今もか」
「はい、不便者を貫きまする」
その大きな口を開いて笑いながらだ。慶次は金森にも話す。
そしてそのうえでだ。こんなことも言うのだった。
「では。岐阜に帰ればその時は」
「平手殿に悪戯をするか」
「平手殿の小言も聞かぬと寂しいものですな」
「おられたらおられたでまた厳しいぞ」
それが平手だ。信長ですら彼は苦手だ。
そして慶次にとってはだ。彼の存在は。
「頑固な父親じゃぞ、まさにな」
「それがしの父上よりまだ恐ろしいですな」
「御主そもそもこれまで何回殴られた」
「五つの時に平手殿の寝ておられるところに落書きをしまして」
「顔にじゃな」
「そして起きた時にです」
まさにだ。どうなったかというとだった。
「その右の拳で思いきり頭を」
「がつんとやられたか」
「今と変わらぬ痛さでございました」
つまり拳の威力はかなりのものだったというのだ。
「いや、まことに」
「衰えぬ平手殿も凄いがのう」
「それがしもですか」
「子供の頃から変わってはおらぬのか」
「悪戯はそれがしの生きがいでございます」
「又左に殴られてもするのじゃな」
「平手殿も権六殿も叔父御もどうも頭が硬いですな」
慶次は笑いながらその前田、彼の前にいる叔父も見たのだった。
「ほんの些細な悪戯で顔を真っ赤にされるなぞ」
「平手殿のお顔に落書きのう」
「子供の悪戯ですぞ。この上洛も前もしましたが」
「それでか。出陣の前の日に平手殿に追われていったのは」
「あの後で跳び蹴りを受けました」
「全く。よくそれで済んだものじゃ」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ