第九十一話 千利休その十一
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「やがて織田信長にもじゃ」
「そうした感情を抱きますか」
「そうなりますか」
「今は違うであろうがな」
今の義昭は信長に対して愛着どころではなかった。今まさに彼を父と呼ばんばかりだ。それ程までに彼を信頼し頼りにしているのである。
だがその義昭がだ。やがてはというのだ。
「しかしやがてはじゃ」
「織田信長と対立しますか」
「なる。間違いなくじゃ」
声が言うとだ。それに加えて言うのだった。
「ましてや織田信長は天下を目指しておるな」
「はい、天下布武ですな」
「それを掲げております」
「しかしじゃ」
だがそれでもだというのだ。ここでだ。
「将軍は将軍じゃ」
「公方ですな」
「天下を統べる」
「天に二日なしよ」
これもまた摂理だった。この世での。
「織田信長はまさに日輪よ」
「しかしそれに対してですな」
「足利義昭は公方」
「まさに天に二日ですな」
「そうなっておりますな」
「左様、その輝きは織田信長の方が遥かに強い」
このことは最早言うまでもなかった。やはり信長の輝きは圧倒的なものがある。彼は自ら強烈な光を放ちそれで全てを照らしているのだ。
その彼と比べるとだ。最早義昭はだというのだ。
「足利義昭ではどうにもならぬ」
「確かに。比べるべくもありませぬ」
「所詮室町幕府の命運は尽きておる」
「ですな。嘉吉の乱もありました」
六代将軍である足利義教が赤松氏に殺された乱だ。足利義教はとかく暴虐な振る舞いの多い暴君であり人望は薄かった。しかし仮にも公方が臣下に殺されたのだ。
このことはそのまま幕府の威光をかなり弱めた。しかもだった。
「応仁の乱に今の戦国の世」
「しかも先の御所での将軍足利義輝の死」
「それだけのことがあれば」
「潰れて当然よ」
中央の声は言い切った。
「命運が尽きるのもな」
「ですな。今ああしていてもですな」
「所詮その命脈は尽きております」
「間も無く消え去るのが運命」
「そうですな」
「大名達の中でわかっておる者もおる」
既にだ。室町幕府の命脈が尽きていることをだ。
「あの幕府は終わっておるわ」
「しかしあの将軍だけはわかっていない」
「そうなりますな」
「そこが狙い目でもあるな」
まただ。狙い目が見つかったというのだ。
「幕府にも仕掛けるか」
「それがいいかと。幕府もまた使えるかと」
「それに寺社の勢力もですな」
「仕掛けられますな」
「仕掛けられる相手には全て仕掛けるとしよう」
闇の中でだ。中央の声は言うのだった。
「是非共な」
「そうですな。では」
「まずは日輪を消しましょう」
「闇の中にあの者を消して」
「そのうえで天下もまた」
闇の者達も動こうとしていた。しかしその影は今は誰にも見え
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