第九十一話 千利休その五
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「天下には。我々の他に何かがおります」
「何かとは何じゃ」
「はっきりと。実体としてわかりませぬが」
「ふむ。しかし何かがおるというのじゃな」
「そう感じることがあります」
「茶の道には何かがあるのか」
信長は利休の言葉に最初こう考えた。だが、だった。
彼は勘からそれは違うと察した。そしてこう言ったのだった。
「この世にか」
「はい、その様に思えます」
「ふむ。それが何かじゃな」
「まだ何かわかりませぬがおそらくは」
「よからぬものじゃな」
「そう思いまする」
「古事記や日本書紀を読んでおるとまつろわぬ者達が出て来よる」
信長は記紀の話をした。ここでだ。
「そうした者達は実は朝廷。神武帝や日本武尊に対した者達と思っておるが」
「そうした存在に近いでしょうか」
「鬼や土蜘蛛もそうだったらしいのう」
彼等もまつろわぬ者達だったというのだ。信長はただ書を読んでいる訳ではない。そうしたことまで読み取り理解しているのである。それが彼の書の読み方なのだ。
そこからだ。彼は言うのだった。
「実際は人であった様じゃ。しかしじゃ」
「真に怖いのは人であります」
「うむ。わしもそう思う」
「人の心こそが真に恐ろしいものでしょう」
「そうじゃな。まさにそうじゃ」
「そうしたものかとも思いますが」
利休は茶の道から感じていた。松永を時折見るが彼自身そのことに気付いていない。松永を見ていることすら気付いていないのだった。
信長も松永をちらりと見たがやはり気付かない。そのうえで二人で話していく。
「どうなのでしょうか」
「わからぬな。どうもな」
「私もです。しかしです」
「それでもじゃな」
「いるかと」
利休は言った。
「何かが。しかしその何かは」
「姿を見せぬか」
「影を感じるだけです。それも時折」
それだけだというのだ。利休ですら。
「それだけでございます」
「ふむ。しかし何かがおるか」
「それは間違いないかと」
「そのこと。覚えておくか」
信長は腕を組み利休に述べた。
「まあおらぬに越したことはないがな」
「私の気のせいかも知れません」
「この世は一つではない」
信長はこのことも理解していた。この世の天下を目指しているが世界はその天下だけではないということもだ。彼は理解しているのである。
「茶の世もあれば歌の世もあるな」
「絵の世もあります」
「実に色々な世がある。そして中には」
「よくわからぬ世もあるでしょう」
「そうやも知れぬな。ではじゃ」
「はい」
「これから宜しく頼むぞ」
家臣に対する言葉だった。まさに。
「御主の見識、この天下の為にも役立ててもらう」
「さすれば」
こうして利休に今井、津田も信長の下に加わったのだった。織田家は
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