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戦国異伝
第九十一話 千利休その四
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「黒、しかし闇ではないな」
「闇に詫び寂びはありませぬ故」
「黒だというのじゃな」
「左様です」
「御主闇は嫌いか」
「申し上げた通り。侘び寂びがありませぬ」
 だからだとだ。利休も信長に話していく。
「それ故に私の興味のあるものではありませぬ」
「そうか。それでか」
「私はあえて色を。そして華美を求めず」
「茶の道を開いていくか」
「信長様の色は青ですな」
「うむ、それが織田家の色じゃ」
 そう定めたのだ。尚家の色を定めているのは織田家だけではない。
「そうしておる」
「そうですな。上杉殿も黒ですが」
「御主の黒とはまた違うな」
「そう思います。上杉殿の黒は色としての黒です」
「しかし御主のこれはあえて色を消した黒か」
「左様です。如何でしょうか」
「色を使うだけが美ではないか」
 信長は黒い茶碗の中の濃緑色の茶を見ながら言う。茶の淵には泡が微かにあるがその泡も緑だ。黒と緑がそこにあるが色のあるものではなかった。
 その色のない世界に身を置きだ。信長は言った。
「これもまた天下じゃな」
「茶の天下でございます」
「御主はこの天下を治めるか」
「治めるのではありませぬ」
 利休は言った。彼の天下は治める天下ではないと。
 では何かとだ。彼は信長にこう言ったのだった。
「何処までも。歩いていくのです」
「茶の道をか」
「はい、そうです」
 静かに頭を垂れてだ。目を閉じて信長に述べたのだった。
「それが私の。茶の天下なのです」
「即ち茶の道か」
「その通りです」
「治める天下ではないか」
「おそらく果てはないでしょう」
 利休は茶の道を見ていた。そしてその道はだというのだ。
「何処までも続いているものです」
「しかしその道をじゃな」
「歩んでいきます。茶の道に終わりはありませぬ」
「わかった。ではじゃ」
 ここまで聞いてだ。信長は利休に告げた。
「御主はその道を歩め。茶の道をな」
「畏まりました。それでは」
「そしてじゃ。御主はただ茶の道に通じているだけではないな」
 信長は見抜いていた。このこともまた。
「かなりのものも備えておるな」
「そしてそれ故にですか」
「わしに仕えよ。御主達もじゃ」
 今井と津田にも告げたのだった。
「御主達も織田家に仕えよ」
「侍としてでしょうか」
「そうせよというのでしょうか」
「町衆としてじゃ」
 その立場から仕えよというのだった。
「利休もじゃ。御主も茶人としてわしに仕えよ」
「侍でも。僧でもなく」
「僧でもあるがわしは御主を茶人として見る」
 だからだというのだ。
「これでよいか。よいのなら」
「では。この千利休茶人として」
 一見すると眠りに入っている様だ。そこには動きはあまり見られない。
 
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