第九十一話 千利休その三
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満足した笑みになりだ。こう彼に述べた。
「噂だけのことはあるのう」
「いえ、ただ思ったことを言っただけです」
「しかしそれだけのことがすぐにわかるのは見事じゃ」
信長は利休のその言葉をよしとしていた。そのうえでだ。
彼にだ。このことを問うたのだった。
「して御主の言葉じゃが」
「詫び寂びですか」
「それはこうしたものを言うのじゃな」
「はい、茶の道を考えたうえで必要なものと存じます」
詫び寂び、それがだというのだ。
「それはこうしたものでございます」
「ふむ。派手でも豪奢でもない」
今この場にはそうしたものはなかった。何処か寂しい。
そして小さい。派手さは全くない。だが信長はそうしたものを見てこう言うのだった。
「じゃが何かが違う。新しいのう」
「信長様もおわかりになられますか」
「言葉ではよく言えぬがな」
だがそれでもだ。わかるというのだ。
「それでもな」
「畏まりました。では今から」
こう応えてだ。そのうえでだった。
茶会に入った。その場でだ。
利休は茶を淹れていく。その手の動きを見てだ。
羽柴がだ。こう呟いた。
「わしにはどうもよくわからぬが」
「それでもじゃな」
「うむ、凄いのはわかる」
こう蜂須賀に言うのだった。
「利休殿の茶が凄いのはな」
「御主茶は本当に近頃はじめたばかりじゃな」
「だから百姓の倅が茶なぞするものか」
「そもそも茶を飲むこともないな」
「高いからのう」
「この頃結構出て来てはおるな」
茶も出回りだしたというのだ。無論信長も茶の栽培を奨励している。そうして茶を売らせて百姓の蓄えにもさせているし茶も出回らさせているのだ。
「まだ高いのう」
「百姓の家でそうそう茶なぞ飲めるものではないわ」
「そうじゃな。ではまことにようやくじゃな」
「母上に茶を飲んで頂ける様になった」
ここでも母親が第一の羽柴だった。
「まさにようやくのう」
「そうじゃな。それでじゃが」
「うむ、それでじゃな」
「利休殿の茶の淹れ方じゃが」
蜂須賀も利休のその淹れるのを見ている。優雅ではない。
だがそこには確かに道があった。落ち着き独特の、色はないがそこに派手ではない気品もある。そうしたものを見てだ。信長は一言も発さない。
家臣達も何時しか沈黙した。そうしてだった。
利休は茶を淹れ終わり織田家の面々にだ。その茶を淹れた茶器を差し出してこう言った。
「ではこの茶をです」
「回して飲むのじゃな」
「そうして頂けるでしょうか」
信長にも言う利休だった。
「私の淹れた茶を。何杯かありますが」
「そうじゃな。それではな」
「ではお飲み下さい」
利休は信長に述べて織田家の面々に己が淹れた茶を差し出した。まずは信長がその茶を
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