第九十話 堺衆その六
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「信長様のところに参ろう」
「はい、それでは今からでしょうか」
「織田家の本陣まで行くのでしょうか」
「そうじゃな。早い方がよいな」
少し考えてからだ。答える羽柴だった。
「それではな」
「はい、では今から」
「参ります」
「それはいいのだが」
これまでこの場では沈黙を守り茶を飲んでいるだけのヨハネスが口を開いた。
今井達を見てだ。彼はこう彼等に問うた。
「貴殿等は恐れてはいないのか」
「織田家の本陣に参上することをですか」
「そのことについてですか」
「そうだ。怖くはないのか」
「そうですな。本陣でばっさりということもあります」
「その危険はありますな」
こうした危惧はだ。二人も除外していなかった。
そしてそのことをだ。自分から言うのだった。
「そうしたことは今はままありますし」
「陣中で、ということは」
「それは商人とて例外ではない」
ヨハネスは静かだが強い調子でだ。二人に話す。
「それでもだ。怖くはないのか」
「怖いと言えば怖いですな」
「それは否定できませぬ」
二人はヨハネスに答える。彼の明らかに日本人のものではない顔を見ながら。
「しかしそれでもです」
「我等にも商人としての誇りがあります」
「商いにも命を賭けております故」
「ここでもです」
「そうか。覚悟があるのか」
二人の言葉だけでなくその目も見てだ。ヨハネスは述べた。
「貴殿等にも」
「はい、ですから」
「我等は本陣に参ります」
「それにです」
二人が堺の町衆としての意地を見せたところでだ。ここでだ。
利休も言ってきた。彼はその大柄な身体からこうヨハネスに述べた。
「織田信長様がお話通りの方ならば」
「それならばか」
「我等が本陣、その御前にいても斬られますまい」
「そう言えるのか」
「そう思います」
その落ち着いた様子でだ。利休は話していく。
「斬る位なら最初から入れますまい」
「確かにな。織田信長様はそうした方ではない」
ヨハネスは信長を己の主として利休に応えた。
「斬るのならだ」
「本陣ではされませぬな」
「陣に入れぬ。それにこうして使者を送ることもせぬ」
「戦の場においてですな」
「そうだ。斬る」
信長が剣を振るう場所はそこだというのだ。戦の場だというのだ。
「今頃堺も兵に囲まれているところだった」
「やはり。そうなのですか」
「そうだ。では、だな」
「はい、それではです」
「貴殿のその茶だが」
利休の茶のことは知っている。ヨハネスはそのことを今彼に言うのだった。
「是非だが」
「今こうしてお淹れしておりますが」
「それはその通りだが」
だがそれでもだというのだった。
見ればヨハネスの顔は普段のその厳しい、仮面の様なもので
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