第八十九話 矢銭その十
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「それでもだ。茶は飲もう」
「共に飲むか」
「私は松永は嫌いだが羽柴殿は嫌いではない」
実際にその秀吉を見てだ。微笑んでの言葉だった。
「ではだ。堺ではだ」
「町衆をこちらに引き込みじゃ」
「そのうえで千利休殿とも会うか」
「フロイス殿達はおられるかな」
「いると思う」
彼等もだ。いるというのだ。
「懐かしいな。元気だろうか」
「気真面目な御仁達とのことじゃが」
「純粋だ。そして政や赴く国への愛情もある。ああした者が多ければ」
少し溜息をついたヨハネスだった。そのうえで言うこととは。
「スペインもよい国になったのだがな」
「スペインというのは悪しき国なのか?」
「栄えてるが問題も多い」
それがスペインだというのだ。今の。
「新大陸やフランドルでしていることはこの国の戦国どころではないぞ」
「いや、戦国の乱れ様も酷いと思うが」
「民に危害が及ぶことは稀だ。戦になれば民が戦を見に来るなぞということは有り得ない」
「スペインではか」
「欧州ではだ。ない」
スペインに限らずだ。この地域全体がだというのだ。
「有り得ないことだ。私は最初にその光景を見て驚いた位だ」
「そんなものは普通ではないのか?」
「この国だけだ。欧州では兵が来れば皆逃げ出す」
そうなってしまうというのだ。ヨハネスは彼が生きてきたスペイン、ひいては欧州の戦場のことを思い出していた。それはまさに地獄絵図であった。
「なで斬りなぞ普通のことだ」
「いや、それはまさか」
羽柴はまた首を捻った。なで斬りのことは彼も知っている。城を攻めてその城の中にいる者を殺し尽くすのだ。実際にそうしたことをする者は稀である。
稀だからこそだ。羽柴は今はこう言うのだった。
「有り得ぬだろう」
「私は嘘を言わないと言った」
「ではか」
「そうだ。事実だ」
紛れもなくだ。そうだというのだ。
「この目で幾らでも見てきたことだ」
「左様か。嘘ではないか」
「恐ろしいことにな」
「そんなことがよくできるものじゃ」
羽柴は馬上で腕を組み考える顔になって述べた。
「何故そこまでできる」
「信仰もあるからな」
「信仰?」
「そうだ。信仰故にだ」
そこまで恐ろしいことになるというのだ。ヨハネスが言うには。
「延暦寺の僧兵や腐り様なぞ遥かにましじゃ」
「それが欧州とな」
「恐ろしいまでの腐敗だ。特に腐敗が酷い」
「南蛮はただみらびやかなだけではないか」
「一面に過ぎない。そうした顔も持っているのだ」
「人は色々な顔を持つものじゃがな」
「欧州の闇の顔は恐ろしいのだ」
ヨハネスの顔に今度は闇が差し込んでいた。そのうえでの話だった。
「羽柴殿も存分に注意されよ」
「そうするのが一番じゃな」
「いずれ。近いう
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