第八十九話 矢銭その六
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「フロイス、そしてオルガンティーノという二人が来たそうだ」
「フロイスと申すか」
「イエズス会の宣教師だ。あの司教もそうだったがな」
「イエズス会とな」
「知っているか」
「名前だけは聞いておる。キリスト教を広めに来ておるな」
羽柴も堺に一度行っている。それで知っているのだ。
そしてその知識からだ。こう言うのだった。
「それがイエズス会だったな」
「そうだ。そのイエズス会の二人が来ているのだ」
「堺にそんな者達が来ておるのか」
「気真面目で善良な者達だ」
フロイスとオルガンティーノの人間性についてもだ。ヨハネスは話した。
「あの二人なら問題はない」
「そもそも何故その司教と揉めたのじゃ?」
「奴隷だ」
ヨハネスのその白い顔が微妙に歪んだ。そのうえで言った言葉だった。
「奴隷を扱っていたからな。私はそうしたものは好まないからな」
「奴隷?何じゃそれは」
「それは知らないか」
「昔そんなものがおったのか」
戦国の世の日本にはいない。そもそも奴隷というもの自体が日本からいなくなって久しい。頭は回るが学には疎い木下は首を捻るばかりだった。
「この国にはおらんものか」
「言うなら罪人だ。罪を犯さない」
「罪をか」
「そうじゃ。罪は犯さぬ」
「罪を犯さぬ罪人とな」
そう言われても羽柴にはわからなかった。当然秀長と蜂須賀にもだ。羽柴だけでなく二人もヨハネスの話を聞いて首を捻ることになった。
だが羽柴がだ。ふと気付いて言うのだった。
「つまりあれじゃな。扱いはああしたものでじゃ」
「左様、罪人と変わらない」
「立場もじゃな」
「しかも罪は犯していないのだ」
「また難儀な立場じゃな」
ヨハネスの話を聞いてだ。首を捻る羽柴だった。
「そんなものにはなりたくないな」
「そうだな。そして私はだ」
「司教殿が奴隷を用いることにはか」
「反対した。フランドルにいた頃から奴隷というものは好きにはなれなかった」
「何じゃ?そのフランドルとやらには罪を犯してない罪人がおるのか」
「欧州全体でだ」
そのだ。奴隷達がいるというのだ。
「いるのだ。それも大勢な」
「そんなのはいらんわ」
羽柴は奴隷についてはすぐに否定した。不要だというのだ。
「民は必要じゃがな」
「そういう考えでいい。ローマ帝国、いやギリシアの頃からいるがな」
「ローマ?ギリシア?」
「昔の国だ。今はない」
ヨハネスはこのこともだ。羽柴に話したのだった。
「まあその話は置いておいてだ」
「うむ、堺に行くか」
「羽柴殿の警護はさせてもらう」
万全にだ。そうするというのだ。
「若しあの男が少しでもおかしな動きをすれば」
「むむっ、まだ言うのか」
「当然だ。私も秀長殿と同じ意見だ」
彼もまた然り
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