第八十九話 矢銭その五
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「だが。長いか」
「いや、そんなものではないのか?」
侍も中々名前が長い。羽柴も部将になってそれなりの名前になっている。だからそれはいいとしたのだ。
「わしも最近名前が長くなったしのう」
「最初は違ったのか」
「ただの日吉丸じゃった」
幼い頃の名前をだ。羽柴は述べた。
「名字もなかったわ。最初はのう」
「ふむ。百姓だからか」
「そうじゃ。まあ村の名前が名字になっておった」
「それが侍になりか」
「うむ、色々と名前ができた」
彼の名前は侍になってからできていったというのだ。実際に幼名しかなかった彼も藤吉郎になり秀吉になった。これは成長と共にそうなった。それに加えてだ。
侍になり木下という姓が与えられ今では羽柴だ。彼は侍になり名字もできたのだ。
だからこそだ。彼はこう言うのだった。
「そうじゃからな」
「私の名前については何も思わぬか」
「これで官位。まあわしには縁のないものじゃろうがな」
彼は今はこう思っていた。百姓あがりが貰えるものとは思っていないのだ。
「さらに長くなるぞ」
「名前は地位と共に長くなるものだな」
「そうじゃ。御主はそのフランドルという国で国人だったのか」
「そういう地位にあった」
西洋と日本の違いを頭の中で実感し吟味してからだ。ヨハネスは答えた。
「騎士と呼ばれていたがな。スペイン国王から任じられていた爵位は」
「爵位?」
「この国で言う侍の位と考えてくれ」
ここでもわかりやすくだ。ヨハネスは羽柴に噛み砕いて話した。
「この国で言うと侍頭になるか」
「そんなところだったか」
「よくて侍大将か。そんなところだ」
「そうか。侍大将だったか」
「そうした位にいた」
「ふむ、わかった」
ヨハネスの話を彼なりに理解したうえでだ。羽柴は頷いた。
そしてそのうえでだ。こう言ったのである。
「それでは御主はここに海を渡って来てじゃな」
「堺からな。そしてそこで堺に来ていた司教と対立して堺にいられなくなりだ」
「堺を出たのか」
「そうだ。そして司教の追っ手から逃れてだ」
「飛騨にまで落ちておったか」
「そして飛騨者達に迎え入れられたのだ」
彼の今の仲間である彼等にだというのだ。
「そうなったのだ」
「成程のう。生々流転じゃな」
「自分でもそう思う」
「そうか。しかし堺に行けば」
「その司教がいるかも知れないというのか」
「どうじゃろうな、そこは」
「いや、あの司教はもういない」
彼と対立しただ。その司教はもう堺にはいないというのだ。
「既に明に向かった」
「ふむ。そうなのか」
「そうだ。そう聞いている」
「それではその司教に会う心配はないか」
「そしてその司教の代わりにだ」
後任にだ。誰が来たかというのだ。
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