第八十九話 矢銭その三
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信長は餅についてはだ。こう言ったのだった。
「わしは何個か食ってじゃ」
「むっ、全部ではないのですか」
「これは殿への献上ものですが」
「ははは、これだけ全部は食えぬわ」
そのかなりの数の餅、白く丸いそれを見てだ。信長は笑ってみせた。
「後はカビが生えるか腐るだけではないか」
「では残りはどうされるのですか?」
「一体」
「足軽達にやれ」
兵達にだ。配れというのだ。
「そしてたらふく食わせるのじゃ」
「餅をですか」
「数個以外は」
「その方が餅も腐らぬしよい」
こう言うのだった。
「だからじゃ。よいな」
「ううむ、左様ですか」
「そうされますか」
「そうじゃ。ではよいな」
まただ。信長は諸将に告げた。
「餅はそうせよ」
「畏まりました、それでは」
「殿のおおせの通りに」
「何はともあれ本願寺とは今回はこれで済んだ」
あくまでだ。今回はという限定だがそれでもだというのだ。
「よいことじゃ」
「ではこのままですな」
「三好の城を次々と下していきますか」
「そうされますか」
「最早殆どの城は歯向かわぬだろう」
摂津、河内が織田のものとなりしかも三好家の主だった者達が四国に逃れてはだ。和泉にいる者達は見捨てられた形だ。それではだった。
「だから後はこちらから話を言えばじゃ」
「彼等はすぐに降りますか」
「我等に」
「これまでの地位は保障する」
無論領土もだというのだ。
「そう伝えるぞ」
「そしてその言葉通りですな」
「あの者達はそのまま織田家で用いますな」
「そうする。これで和泉の国人や残っている三好の家臣達は織田家に降る」
「しかし、ですな」
「あの町は」
「堺はじゃ」
信長自らだ。その堺のことに言及したのである。
「あの町はまた別じゃ」
「まだ三好に与していますか」
「どうやら」
「あの町は」
「堺の商人達は三好家と色々縁がありましたからな」
ここでこう言ったのは松永だった。その渦中の男だ。彼が言葉を出すとだ。
他の家臣達、羽柴以外は皆彼を剣呑な目で見据えた。その中には今にも刺し貫かんばかりの者も多い。だがその彼等をよそにだ。
松永は平然として語る。己のその考えを。
「それがしも色々と話をしました」
「では堺については詳しいな」
「はい」
その通りだとだ。彼は信長の問いにも平然として答えた。
そしてそのうえでだ。彼はこう信長に述べた。
「では堺にはです」
「御主が行くか」
「そうして宜しいでしょうか」
「自信はあるな」
「無論」
その自信に満ちた笑みでの返事であった。
「だからこそです」
「言うか。ではじゃ」
「実は最初からです」
「堺には御主が行くつもりだったか」
「左様です。それでは」
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