第八十八話 割れた面頬その十二
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他ならぬ彼の弟である秀長に盟友である蜂須賀がだ。彼の横からそれぞれ言ってきたのだった。それも極めて厳しい顔になって。
「あの、兄上幾ら何でもです」
「あの男だけはいかんぞ」
こう言うのだった。
「松永弾正久秀でございます」
「顔を見ただけで本物の悪党だとわかるぞ」
「それがしもまた同じです」
「あ奴は早いうちに殺してしまうべきじゃ」
彼等もまた、だった。松永にはこうした意見だった。
「何でしたらそれがしが刺客を送りますが」
「これもまた忍の務めじゃ。やるぞ」
「ううむ、御主達もそう言うのか」
「当然です」
「だから相手を誰だと思っておるのじゃ」
とにかくだ。彼等も松永を除くべきだと言うのだった。
そして播磨から加わった小寺もだ。ここでこう言った。
「蠍は放っておいては何時刺されるかわかりませぬ」
「官兵衛殿もそう仰っています」
「ほれ、だから御主もじゃ」
「だからじゃ。もう少し見てもよいのではないかのう」
まだ言う羽柴だった。難しい顔でだ。
「それからどうするか考えてもよかろう」
「甘いですな」
ぴしゃりとだ。小寺は羽柴の意見を否定した。
「相手が相手です。必ずや除きましょう」
「わしもそう思うぞ」
ここで今度は信行も言ってきた。信長の弟である彼も。
「猿、幾ら何でもあの男はまずいぞ」
「勘十郎様もそう仰るのですか!?」
「わしもというが皆言っておるではないか」
信行は何を今更といった顔で羽柴に返す。
「誰がどう見てもあの男はまずいぞ」
「ううむ、そう言われますか」
「言うわ。兄上にも申し上げておる」
信長のすぐ下の弟、一門衆の若いながらも重鎮としてだ。彼も言うのだった。
「あの男は即刻除くべきとな」
「勘十郎様もそう仰っているではありませんか」
「ほれ見ろ、言うたことではない」
秀長と蜂須賀がまた言ってくる。
「殿はああ仰っていますが」
「冗談抜きに危険なことこのうえないわ」
「あの男は茶にも通じておるしそれに毒を入れるやり方もある」
荒木はかなり剣呑にだ。実際の暗殺の仕方に言及してきた。
「わしも茶は好きじゃ。何なら毒を用意するが」
「ううむ、今すぐにという勢いじゃな」
「当然じゃ。本当にどうじゃ」
「まあ。もう少しだけ、まことに少しだけでもじゃ」
羽柴は何とかといった調子で周りの言葉を抑えにかかった。信行達は馬上からそれぞれ顔を出して彼の周りにいる。そのうえでの言葉だった。
「見てみようぞ。それからわしもどうするべきか考える」
「全く。兄上はお甘いですな」
「それがしもそう思いまする」
秀長も小寺もやれやれといった口調になっていた。
「あれだけ剣呑な相手にもそう仰るとは」
「何時寝首をかかれても知りませぬぞ」
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