第八十七話 朝攻めその八
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だからこそだとだ。彼は言うのである。
「さすればそこを攻めるのではなく」
「別の時にじゃな」
「夜に攻めなければいいのです」
彼等が警戒するだ。その時をだというのだ。
「そして今はです」
「敵は疲れておるな」
「夜通し起きていました」
さすればだというのだ。
「疲れていない筈がありませぬ」
「その通りじゃ。それではじゃな」
「今より攻めまする」
滝川は再び言った。
「敵の兵達が疲れきっている今こそです」
「我等は休みそして飯も食ったな」
「はい、ならば尚更いいです」
「よし、ではじゃ」
信長は滝川にあらためて告げた。
「攻めよ。兵の指揮は任せる」
「はっ、それでは」
滝川は信長の言葉に応えた。そのうえでだ。
彼は前線に向かう。既にそこでは兵達が飯を頬張っている。信長は彼等にも食う様に命じたのだ。滝川はその彼等を見て傍らにいる筒井にこう述べた。
「これがです」
「信長様ですな」
「左様です。わかっておられます」
「そうですな。久助殿と御呼びして宜しいでしょうか」
「はい」
一も二もなくだ。滝川はすぐに答えを返した。
「そう御呼び下さい」
「では久助殿」
「何でしょうか」
「我等も兵達を飯を食ってからですな」
「はい、そうです」
まさにそうだとだ。滝川は筒井に返事をした。
「腹ごしらえをしたうえで、です」
「いよいよ攻めますか」
「そうします。今の敵ですが」
城の方を見た。見ればだ。
まだかがり火が燃え三好の兵達が立っている。具足を着け槍を持つ彼等の顔は明らかに疲れている。滝川はその彼等を見てこう言うのだった。
「まさに攻め時です」
「いよいよだというのですな」
「はい、だからこそです」
それ故にだというのだ。
「攻めましょう」
「敵もまさかと思いそのうえ」
「疲れている相手です。造作もありめぬ」
「まことに。戦は夜だけではありませんな」
「夜襲はする場合もしない場合も効き目があります」
滝川はこうも言う。
「すると見せれば敵は警戒しますな」
「あの様にですな」
「そうです。そして警戒します」
「しかし攻めない場合はですな」
「ああして疲れさせることができます」
とにかくだ。夜襲があるということを見せるだけでも違うというのだ。相手にその分警戒させられそれがそのまま戦術にもなるというのだ。
そのことを熟知してだ。滝川は言うのである。
「そして夜襲がなく朝が来れば」
「敵は油断します」
「そうしたことも踏まえてです」
「今はあえて夜は攻めませんでしたか」
「そして今です」
「ですな。では」
「我等も飯を食いましょう」
彼等は眠りそのうえ飯も食っていた。英気は充分だった。
だが三好方はだ。どうかというと。
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