第八十七話 朝攻めその五
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織田の者達は交代で寝ていた。それは信長も同じだ。彼は早めに寝てまだ夜の刻に起きた。実は彼は禅僧の様にあまり寝ないのだ。
起きてすぐに具足を着けてだ。彼は本陣において言うのだった。
「寝るとかなり違うのう」
「そうですな。少しとはいえ寝るとです」
「随分と楽になります」
森と池田が彼の言葉に応える。本陣もかがり火で照らされている。
そのかがり火の中でだ。二人は信長に言う。
「それがし達も少し寝ましたが」
「かなり違いますな」
「夜通し起きるのは仕方ない時以外は避けるべきじゃ」
信長は確かな顔で言う。
「それこそ三虫が出る様な時以外はな」
「では夜襲等の時もですか」
「そうした時においても」
「寝ないでふらふらしていて夜襲が出来ると思うか」
信長がここで問うのはこのことだった。
「どうじゃ。それはできるか」
「いえ、それはどうも」
「難しいかと」
「起きるだけでも中々しんどいのじゃ」
夜は特にだというのだ。人は夜に休むものだからだ。
「だからじゃ。少しでも寝ることじゃ」
「そしていざという時にですか」
「備えるのですな」
「そういうことじゃ。それでじゃ」
「こうして休みですか」
「攻めるのですな」
「そうじゃ。あとは久助次第じゃな」
彼が城攻めを任せただ。その彼次第だというのだ。
「さて、どう動くかのう」
「それが問題ですな」
「果たしてどう動くかです」
「あ奴もやる者じゃ」
そういう者でなければ最初から用いない、それが信長だ。そしてそれと共にである。彼は一度用いた者は裏切りでもしない限り決して追い出したりはしない。だからこそ家臣から忠誠心を捧げられてもいるのだ。
その彼がだ。また言うのだった。
「だから任せるのじゃ」
「では今にもですか」
「城攻めとなりますか」
「いや、今はない」
夜襲はないというのだ。
「この時はな」
「では何時攻めるのでしょうか」
「夜でなければ」
「夜でなければならんということもない」
「!?夜でなくともよい」
「そう仰いますか」
「そうじゃ。夜に攻めねばならんと誰が決めた」
信長は驚く二人にさらに言ってみせる。
「別に他の時でもよいではないか」
「確かに。言われてみれば」
「それは」
「そうじゃな。夜でなくともよいのじゃ」
攻めるのはだ。特にだというのだ。
「朝でもな」
「朝でもですか」
「そして昼でも」
「今敵は夜襲を警戒して身構えておるわ」
信長はこのことも指摘した。
「そこにわざわざ攻め込むこともあるまい」
「確かに。それはその通りですな」
「身構えている相手に攻め込んでもそれは奇襲にはなりませんな」
「戦は相手の虚を衝くものじゃ」
孫子の言葉をそのまま言ってもみせる信長だ
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