第八十六話 竹中の献策その十
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「では戦うしかないか」
「そうじゃな。少しでも生きられる道を選ぼうぞ」
「そうするか」
こうしてだった。止むを得なくだ。彼等は槍を取った。
そして嫌々ながらも織田家に向かおうとする。その彼等を見てだった。
蒲生はいよいよ己が率いる軍勢を進ませた。まずはだ。
弓矢が放たれる。それが敵兵を次々と倒す。だがそれはお互いの挨拶程度のものだった。
お互いに長槍を出して打ち合う。ここでは織田家の特徴にもなっている長槍がものを言った。長い分だけ三好の軍勢を先に叩いて崩したのである。
三好家の軍勢はそのまま崩れようとする。だがだった。
まただった。面頬の男が馬上から叫んだ。
「逃げるなと言っている!」
「!?またか!」
「またあの面頬の人か!」
逃げようとする面頬の男がだ。また叫んだのだった。
「逃げるなというのか」
「じゃあこのまま戦うしかないのか」
「織田家のあの長槍と」
彼等はその長槍に恐れさえ抱いていた。だがそれでもだった。
男は撤退を許さない。あくまで踏み止まれというのだ。
その男を見てだ。織田家の指揮を執る蒲生は言った。
「あの男、何者か」
「面頬でわかりませんな」
「そうですな。一体誰なのか」
「随分と強い声を出しますが」
「あの者は一体」
その彼等を見てだ。蒲生の周りの者達が彼に話してきた。
誰もが怪訝な顔になっている。だがそのうちの一人、美濃の者が言った。
「?何か」
「どうしたのじゃ?」
「いえ、それがしの気のせいでしょうか」
こう言うのだった。
「あの面頬の者何処かで見た様な」
「御主は美濃の出じゃったな」
「はい」
その通りだとだ。彼も蒲生に答える。
「その通りでございます」
「ではあの者は美濃の者か」
「そうやも知れませぬが」
「ううむ。では誰か」
蒲生もここで首を捻った。
「妙な話じゃな」
「美濃者、そういえば」
「確かに。言葉の訛りがそれですな」
「あれは美濃の訛りですぞ」
美濃と隣国であった尾張や近江の者達もここで気付いたのだった。面頬の男の言葉に美濃の国の訛りがあることにだ。それでだった。
蒲生はその目を鋭くさせてだ。こう言った。
「ふむ。美濃の者ならばじゃ」
「殿に国を奪われた恨みでしょうか」
「それで三好家に加わっているのでしょうか」
「それが為に」
「有り得るのう、それも」
その可能性をだ。否定しない蒲生だった。
だが今はそれよりもだった。彼が行うべきことは。
「しかしあの男の面頬を取るのは少し先じゃ」
「はい、まずはですな」
「我等の果たすべきことをしましょうぞ」
「既に側面に鉄砲隊が回ってくれておる」
堀の率いるだ。彼等がだというのだ。
「ならばじゃ。もう少しじゃ」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ