第八話 清洲攻めその十一
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「その首おいらが!」
「待て猿」
横にいる蜂須賀がその彼に声をかけた。
「ここで前に出るのか」
「ああ、そうだよ。悪いか?」
「御主もう首を取っているのだぞ」
見ればだ。既に彼の腰には首が一個あった。敵の足軽の首だ。
「それで満足せぬのか」
「満足してなるかってんだ」
これが木下の返事だった。
「聞いたろ?話」
「敵の総大将の首か」
「そうじゃ。わしが取るのじゃ」
槍をしごいて言う。
「家老も夢ではないぞ」
「しかしな、猿よ」
「無理だというのだな」
「何じゃ、わかっておるではないか」
「うむ、実はわかっておる」
ここでまた言う木下であった。
「それはじゃ」
「それでは何でそんなことを言うのじゃ」
「気合よ、気合」
「気合だというのか」
「自分に気合を入れてそれで敵軍に飛び込んでじゃ」
「ふむ、敵の首をさらに取るのか」
「まあ誰か取れればよいのう」
木下の言葉が急に無欲なものになった。
「一つでもな」
「ではそこにおる足軽の首でも取れ」
「そうじゃな。そうするか」
「そうせよ。わしも三つ取っておるぞ」
蜂須賀はここで自分から誇らしげに笑ってみせた。見るとその母衣にだ。ごろごろとしたものが三つばかりあるのが見えていた。
「この通りな」
「そなた何時の間に」
「これでも忍の心得もあってのう」
「ほう、そうなのか」
「意外じゃろ。しかしそちらには自信があるぞ」
「そうじゃったのか」
「さて、猿よそれではじゃ」
蜂須賀はあらためて木下に対して声をかけてきた。その間も信長の軍勢は敵を追っている。その速さも勢いもかなりのものである。
「貴様もさらに首を取ってじゃ」
「うむ、武勲にするぞ」
「何でも又左殿は一度の戦に幾つも取るそうだな」
「あの御仁と慶次殿はまた格別じゃ」
木下は前田のことはこう評した。
「槍の又左の通り名は伊達ではないぞ」
「そこまで強いのか」
「うむ、強い」
その通りだというのである。
「わしなぞとは比べ物にならん」
「しかしじゃ。猿よ」
「それでも武勲を挙げねばな」
こう話してであった。彼等は逃げる敵に突き進む。その中で坂井太膳は討ち死にしてしまった。その彼を討ち取った者はというと。
「ほう、九右衛門がか」
「はい」
細い目に浅黒い肌の男であった。
「菅屋長頼でございます」
「見事なものよ」
信長は己の前に差し出されている太膳の首を見ながら満足した声を出した。その首は実に無念そうな顔をしてその場にある。
「これで後は信友だけよ」
「その信友は清洲に逃れましたが」
「それは宜しいのですか」
「よい」
信長は家臣達のその言葉に鷹揚に返した。そのうえで、であった。
「九右衛門よ」
「はっ」
「
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