第八十五話 瓶割り柴田その二
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「よいな。今から好きなだけ飲め」
「しかしそれは」
「宜しいのですか?」
「今それだけふんだんに飲み」
「それでも宜しいのですか」
「わしは言った」
これが柴田のだ。足軽達への返事だった。
「ならば。わかるな」
「はい、権六殿がそう仰るのなら」
「我等もです」
「飲ませてもらいます」
「そうじゃ。とにかく飲め」
こうまで言う柴田だった。
「よいな」
「それはわかりましたが」
奥村は実際に杯に水を入れて飲みはじめた。だがそのうえでだ。柴田に対して問うた。
「今水は」
「残り少ないのう」
「それでもですか」
「そうじゃ。飲め」
こう言う柴田だった。その言葉は変わらない。
「よいな。飲むのじゃ」
「そうして宜しいのですか」
「皆もじゃ。飲め」
そしてだった。さらにだ。
「何なら浴びてもよいぞ」
「水を浴びよと」
「そこまで仰るのですか」
「そうじゃ。好きな様にせよ」
実際にだ。柴田自身も水をおおいに飲みだす。それを見てだ。
足軽達は誰もが水をたらふく飲む。暑い中では最高の馳走だった。
だがその馳走を楽しむ中でだ。やはり懸念する声があった。
「このまま飲んでいいものかのう」
「そうじゃな。戦は今日で終わりとは限らぬ」
「それでここで水をたらふく飲んでよいのか」
「後に差支えが出ぬか」
彼等は後のことを考えていた。そのうえで心配していた。しかしだ。
慶次は水を飲みながらいつもの明るい笑みでだ。こうその心配する者達に言った。
「ははは、次の戦は考えぬことじゃ」
「慶次殿、それは一体」
「どういうことでしょうか」
「今ここで勝てばよいのじゃ」
何でもないといった顔でだ。慶次は言うのだった。
「今日の戦でじゃ。そうすればよいのじゃ」
「今日の戦で、ですか」
「勝てばよい」
「それだけだというのですか」
「そうじゃ。簡単じゃ」
実際に極めて単純にだ。慶次は言っていく。
「勝てばよいだけじゃ」
「ううむ、しかしです」
「それは容易ではありませぬ」
「六角も一万おります」
「ですから勝つのは」
「そこを勝つのじゃ」
慶次の今度の言葉は素っ気無いものだった。
「勝てぬ、無理だと思えばじゃ」
「それで終わりですか」
「何もかもがというのですな」
「そうじゃ。勝とうと思うことじゃ」
「今日の戦で」
「そう思うことがよいのですか」
「そういうことじゃ。ではよいな」
慶次がこう言うとだ。これまでいぶかしんでいた足軽達もだ。
まだいぶかしんでいた。だがそれでもだった。
少しは納得する顔になって。こう慶次に答えた。
「では。今はですか」
「我等は水をたらふく飲む」
「そうするべきですか」
「うむ。とにかく飲むのじゃ」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ