若葉時代・慰霊祭編<後編>
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た森は大人達のための鎮魂祭の斎場だ。
この日のために、川に乗り出す形で設置された水上の舞台。
各一族の間から選抜された者達が戦死者のために奉納する、死者の魂を慰めるための舞や唄。
――――舞台は回って、千手の番になった。
「――さて。そろそろ時間だね。準備はいいか?」
「勿論です」
「扉間に同じく、ですわ」
舞台端に設けられた控えの間の中で、それぞれの衣装に身を包んだ弟妹達に声をかければ頼もしい返事が返って来た。
うん、無駄に緊張もしていない様で何よりだ。
「では、姉者。我らは先に」
「楽しみにしておりますわ、柱間様の舞を」
並んで先に舞台に上がった弟妹達に苦笑を返し、呼気を整える。
鎮魂の舞自体は何度か千手の慰霊祭でも行った事はあるが、こんな大人数の前では初めてだよ。
ざわめきが落ち着き、二人の奏でる妙なる楽の音が月下に響き渡る。
手にした扇を持ち替えて、一度瞳を閉じる。そうして、静かに舞台に上がった。
松明の明かりと冴え冴えとした月光。
その二つに照らされた舞台の上で、扇を開いて、韻に合わせて足を踏む。
舞台の下では、各一族の者達が静かに一心に舞台上がった私達を見つめている。
どの顔もただただ静かで、凪いだ湖面の様で。
泡沫の日々に隠された、逝ってしまった人々への尽きる事の無い哀悼と、これから先への沈痛な願いを感じる。
それら全ての人々に見守られながら、手にした扇を返す。
緩やかな旋律に合わせて、服の袖を優しく振る。
殊更ゆっくりと体を動かして、するすると滑る様に舞台の上で歩を進める。
ミトの爪弾く琴の音と、扉間の吹き鳴らす横笛の音色。
それら二つが見事に調和して、聞く者の心を震わす楽曲を演奏する。私はそれに花を添える様に、美しい旋律の調和を乱さない様に、気をつけるだけ。
――憎しみを捨て去る事は難しい。
――死者を忘れる事など出来やしない。
それでも。
それでも、少しでも人々の心から「痛み」が癒される様に、どうしようもない憎しみが人々の心を覆う事の無い様に。
少しでも亡くなった人々の御霊が安らぐ事を求めて、舞の一差し一差しに祈りを込める。
ある意味、これは酷い皮肉だ。
誰よりも人の命を奪う様な真似をして来た私が、彼らの前で鎮魂の舞を舞っているだなんて。
結局の所はこうしている事だって自己満足なのだろうけど――……それでも。
そうなる事を願って、私は鎮魂と慰霊のための舞を舞うだけだ。
――――これ以上、疲れ果てた人々の心が傷つけられる事が無い様に。
これまで関わって来た全ての人々の顔を思い浮かべて、私は舞い終える。
……純白の輝きを持つ静謐な月が、そっと地上を見守
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