第十六話 プールと海その十一
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「じゃあお家に帰ったらね」
「家に帰ったらか」
「うん、照る照る坊主飾ろう」
美優に応える形で言った。
「そうしようね」
「あれって効果あるのかよ」
「ただのおまじないだけれど」
それでもだというのだ。
「ひょっとしたらね」
「効いてくれるか」
「本当にひょっとしたらだけれど」
おまじないに過ぎない。だから効果は実際のところ思えばそれで、というところだ。だがそれでもだというのだ。
「照る照る坊主って可愛いしな」
「うふふ、そうよね」
琴乃の今の言葉に笑ったのは彩夏だった。自分の手に右手を当てて笑う。
「あれって確かにね」
「可愛いわよね」
「私も子供の頃よく飾ったし」
その照る照る坊主をだというのだ。
「そうしたしね」
「彩夏ちゃんもそうしたの」
「そう。ただ秋田だと」
彼女のルーツのあるそこはというと。
「冬長いじゃない」
「東北だからね」
「それで雪も多いから」
「照る照る坊主はないの」
「あまり飾らなかったわ」
そうだったというのだ。
「というか雪が多かったから」
「雪だとどういうおまじないなの?」
「別にないわ」
秋田ではそうだったというのだ。
「特にね」
「そうだったの」
「うん、ただ雪が多いと」
彩夏はそれでもだと話題を変えてきた。
「雪の話も多くて」
「それで何かあったの?」
「雪の妖怪の話が多くなるのよね」
「雪女とか?」
「あと雪ん子とかね」
そうした妖怪もいるのだというのだ。
「他にはつらら女とかね」
「そういう妖怪もいるの」
「あと秋田だから」
彩夏は秋田それ自体からも話した。
「なまはげもいるし」
「あれね」
「怖いわよ。かなり」
彩夏はわざと怖そうな顔になってみせて琴乃に話した。
「あれはね」
「鬼よね」
「鬼の仮面株って蓑来て包丁持ってね」
伝統的ななまはげの衣装である。秋田では昔からなまはげといえばこの格好でそれで姿を現すのである。
「家の中に入って騒ぐのよ」
「泣く子はいないか泣く子はいないかって言ってよね」
「そう、それで騒ぐのよ」
「普通に怖いわよね、それって」
「わかってても怖いから」
特に子供にとってはだった。
「もう迫力あってね」
「神戸にはそういうのいないから面白いって思うけれど」
「秋田じゃ風物詩だから」
「怖かったのね」
「今は懐かしいけれどね」
だが子供の頃は違ったと笑顔で言う彩夏だった。
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