第十五話 雨は駄目その十
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「出てきたわ」
「そうなの」
「ううんと、ちょっといい?」
彩夏は傘を肩に置いてそれから自分の鞄の中から書くものを取り出した。そしてそこにすぐに書いていく。
そのうえでこう言うのだった。
「ううんと。書いてだけれど」
「あっ、それだと」
景子が横からその作詞を見て言う。
「ちょっと字がわかりにくいわ」
「そうよね」
書いた本人も思うことだった。
「これじゃあ」
「ええ。それにね」
景子はさらに言う。
「作詞は書いた瞬間じゃなくてね」
「それからよね」
「書いてから熟考した方がいいから」
「寝かしてよね」
言葉としてはこうなる。
「そうしてよね」
「そう。暫くそうしてね」
「わかったわ。けれどとりあえず書いたから」
それでだというのだ。
「後はここからね」
「作詞はしていって」
「琴乃ちゃんの作曲もね」
「ううんと、リズムは頭の中にあるから」
その琴乃が答える。
「だからね」
「それでなのね」
「お家に帰って書くから」
その作曲をだというのだ。
「そうするから」
「じゃあ今は」
「もうちょっと紫陽花見させて」
琴乃はこう彩夏に答えてそのうえで里香にも顔を向けて言った。
「そうしていい?」
「勿論よ」
里香は微笑んで優しい声で琴乃に答えた。
「紫陽花見てくれるのならね」
「里香ちゃん本当に紫陽花好きなのね」
「お水も好きだし」
それにだというのだ。
「それにね」
「このお花もだから」
「だから。もっと見て」
こう琴乃に言うのだった。
「是非ね」
「うん。それじゃあね」
「あたしも見ていいか?」
美優も笑顔で言う。
「何か好きになってきたよ、紫陽花が」
「美優ちゃんもなの」
「うん、だからな」
それでだというのだ。
「見ていいよな」
「うん、美優ちゃんもそうしてくれたら嬉しいから」
里香は美優にも微笑んで述べる。
「私もね」
「だったらもっとな」
「私もね」
景子も微笑んで紫陽花を見て言う。
「私これまでお花って鮮やかな色が好きだったの」
「赤でも?」
里香は赤く、淡いピンクに近い赤の紫陽花の花を見ながら景子に問うた。
「鮮やかな色が好きだったの」
「そうなの。今も好きだけれど」
だがそれでもだというのだ。
「今紫陽花が好きになったから」
「それでなのね」
「こうした赤も好きになったわ」
景子は里香に話す。
そして今度は青の紫陽花を見て言った。
「青もいいわよね」
「えっ、景子ちゃん青も好きだったの?」
「今好きになったの」
景子は今度は琴乃に答えた。
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