第十五話 雨は駄目その九
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「こうした場所だとね」
「滑るからね」
「滑ってこけたら濡れるからね」
琴乃は笑って言った。
「だからよね」
「そう。濡れて制服が汚れたら駄目だから」
里香もさらに言う。
「気をつけてね」
「ええ、わかったわ」
「じゃあ行きましょう」
里香は自分から一歩踏み出した。そしてだった。
五人で寺の庭に来た。周りは寺の建物以外は緑の木々ばかりだ。
そこには皐があれば百合もある。そして。
里香はその中の一隅を指差して四人にこう言った。
「これよ」
「紫陽花?」
「それ?」
「そう、これなの」
見ればそこには紫陽花達があった。青や紫、そして淡い赤のその花達が咲き誇っている。里香はそれを指差して言うのだ。
「これがなの」
「ああ、成程な」
美優が最初に里香の言葉に頷いた。
「これか」
「そう。梅雨だからね」
「それで雨だと余計にな」
「いいでしょ」
「だよな」
美優は優しい顔で里香の言葉に頷いた。
「本当にな」
「梅雨にはこの花だから」
「紫陽花ね」
今度は景子が言った。
「この花なのね」
「私子供の頃からこのお花が好きなの」
「紫陽花が?」
「そう。このお花がね」
紫陽花がだというのだ。里香は青や赤、それに紫の花達を見ている。そしてそのうえでこう話すのだった。
「梅雨って確かに雨が多いけれど」
「それでもなのね」
琴乃もその紫陽花達を見て言う。
「このお花があるのね」
「そうよ。紫陽花がね」
「紫陽花って」
里香はまだ紫陽花を見ている。そこから目を離さない。
「色が次第に変わって。しかも」
「しかも?」
「見て」
琴乃に紫陽花のある場所を見せた。そこは葉だった。
一枚の葉にあるものがいた。それは。
「蝸牛だけれど」
「ああ、何かね」
「何かって?」
「凄くいいよね」
琴乃は目を笑わせて里香に答えた。
「とてもね」
「でしょ?梅雨で雨があって紫陽花が咲いていてね」
「そこに蝸牛もいれば」
「全然違うでしょ」
「絵よね」
それになるというのだ。
「本当にいいわよね」
「でしょ?やっぱり」
「うん。それにね」
琴乃はその笑みでさらに言う。
「今何か閃いたから」
「歌よね」
「ええ、コミカルな感じっていうか」
「ていうか?」
「しっとり?曲のイメージ湧いてきたわ」
「私も」
彩夏も言ってきた。
「何かきたら」
「彩夏ちゃんもなの」
「うん、私は詞だけれど」
彩夏はこちらだった。
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