第十話 五月その九
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「それ買ってきたから」
「中華街でよね」
「今日あそこに行って来て買って来たのよ」
「有り難う、私あれ大好きなのよ」
「そうでしょ。琴乃ちゃん月餅好きでしょ」
「うん、昔からね」
琴乃は先生になる話から表情を変えて母に応える。
「固めでね」
「クッキーとかも好きよね」
「うん、昔から」
甘いもの全般が好きな琴乃だがそうした固いものが特に好きなのだ。
それで月餅も好きで笑顔でこう母に応えているのだ。
「ただ。中国のお菓子って」
「どうかしたの?」
「作り方わからないのよね」
その月餅もである。
「何かね」
「そういえばお母さんもね」
「作ったことないわよね」
「洋菓子専門ね」
これは琴乃も同じだ。菓子系統は洋菓子ばかりだ。
「和菓子になるとね」
「あれ難しいわよね」
「和菓子は凄く難しいのよ」
母は顔を少し曇らせて琴乃に話した。
「もう何から何までね」
「ぼた餅とかはどうなの?」
「あれも注意しないと」
「美味しくないのね」
「一見すると簡単に思えるけれどね」
実際は違うというのだ。
「注意しないとね」
「美味しくないのね」
「そうよ。殆ど芸術品だから」
「芸術品って」
「菓子職人って言葉もあるじゃない」
日本から生まれた言葉である。
「和菓子の世界は職人の世界なのよ」
「素人がそう簡単に出来るものじゃないよね」
「そうよ。洋菓子も難しいけれど」
和菓子はまた特別だというのだ。
「何しろ形まで厳しく言われるから」
「あっ、そうよね」
琴乃は和菓子の形、色までが素晴らしいそれを思い出してぎくりとした感じの顔になってそのうえでこう答えた。
「和菓子って形奇麗よね」
「色も白とか桃色とかね」
「滅茶苦茶奇麗よね」
「琴乃ちゃんお料理の形はどうしてもでしょ」
「努力してるけれど」
顔を曇らせての母への返事だった。
「それでもね」
「そうよね。だからね」
「和菓子は難しいのね」
「お母さんも無理よ」
母もそうだと言う。
「洋菓子も形も大事だけれど」
「それでもなのね」
「そう。和菓子は洋菓子以上にそれが要求されるから」
無論中華菓子よりもだ。
「注意してね」
「和菓子って本当に難しいのね」
「チャレンジするのもいいけれど注意してね」
「うん、わかったわ」
「じゃあ進路のことはよく考えて」
琴乃にこのことを言うのも忘れない。
「勉強していってね」
「うん、そうするね」
こうした話をしてだった。琴乃は高校一年だがそれでも進路について考えだしていた。このことをたまたまトイレが出る時に一緒になった景子に話した。
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