第九話 春の鍋その六
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「それはどうかしらって思ってね」
「けれどすき焼きっていうと」
「そうでしょ?お砂糖もお醤油もそれなりに入れないと味にならないから」
この辺りが難しいところだ。すき焼きはただ肉や他の具を鍋に入れてそれで終わりではない、砂糖や醤油の量も問題なのだ。
「そこがね」
「薄味に過ぎたらね」
「絶対に美味しくないから」
「お肉は煮たら柔らかくなるけれど」
煮れば煮る程だ。肉料理の秘訣でもある。
「味付けはっていうと」
「そこ、難しいわよね」
「そうなのよね」
こう話していく。二人は水炊きを囲んですき焼きの話もした。
その中で琴乃は鶏肉、骨付きの身ただけで食欲をそそるそれを口の中に入れながらそのうえで美優に言った。
「お鍋の後だけれど」
「何があるかっていんだよな」
「うん、やっぱり」
「どっちがいい?」
美優は楽しげな笑みで琴乃に問い返した。彼女は今は豆腐を食べている。
「それでさ」
「おうどんか雑炊か?」
「どっちもあるよ」
だからどちらにするかというのだ。
「冷凍うどんとな」
「御飯と」
「鍋ってただ鍋の中のを食べるだけじゃないからな」
「その最後によね」
「ああ、うどんか雑炊な」
「そのどっちにするか」
鍋ものにおける永遠の問題の一つだ。そのどちらを食べるかによって鍋のあり方が変わってしまうのだ。
それで美優も四人にこう問うたのである。
「で、どっちだよ」
「ううん、私は雑炊かしら」
「私もね」
「私も」
里香と彩夏も頷く。そして最後の景子も。
鍋をじっと見ながら考える顔になってそれからこう言ったのである。
「雑炊ね」
「景子ちゃんもそれでいいんだな」
「ええ、少し考えたけれど」
その結果出した答えだった。
「雑炊お願いできる?」
「ああ、じゃあ決まりだな」
こうして最後のしめも決まった。それは雑炊になった。
鍋を全て食べ終え残っただしに御飯を入れる。ここで美優は四人に対してまた尋ねたのだった。
「それでどっち入れる?」
「えっ、雑炊よね」
「もう御飯入れたけれど」
「それでどっちって」
「もう言うまでもないんじゃないの?」
「違うよ。卵か味噌かな」
美優が言うのは増水に入れる味付けだった。
「どっちにするんだよ」
「ああ、卵の雑炊か味噌のそれにするのか」
「そういうことなのね」
「ああ、それでどっちにするんだよ」
御飯を入れてからの問いだった。
「あたしとしてはどっちでもいいけれどさ」
「お味噌かしら」
「そうよね」
今言ったのは彩夏と景子だった。
「お味噌の雑炊も美味しいし」
「いいわよね」
「そうね。私も」
続いて里香も言う。
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