『彼』とあたしとあなたと
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気がつけば、日紅はたった一人で屋上にいた。犀はいない。
食べかけの日紅の弁当が、そのままある。
「おまえ、本当に気づいていなかったの?」
犀の声が頭を巡る。
「今まで、本当に、気づかなかったの?」
日紅は頭を抱えて座り込んだ。
ぽつりと呟く。
だから大人になるのが嫌だったのに。
気づいていなかった。わかっていなかった。知らなかった。
でも本当は、きっとわかっていた。
日紅はそんなに鈍くない。思い当たることなんて、山ほどあった。
日紅自身が、ただそれに頑なに目を向けていなかっただけ。
犀は『彼』のことをとてもとても気にする。
日紅がクラスの男子と話をしていれば割り込んでくるし、いつも日紅に優しい。とてもとても優しい。
それがただの優しさなのかと首を傾げる心を日紅は今まで押し込めてきた。犀はとっても優しいから。皆と同じようにあたしにも優しくしてくれるだけ。それだけ。特別扱いしているように見えるのも、小学校からの付き合いだから。ただそれだけのこと。別に変に思うこと、なにもない。
「あのね、日紅ちゃん。私ねぇ、木下君のこと、好きなんだぁ?」
その、言葉を聞いたとき、日紅は眩暈がした。
にこりと日紅を覗き込んでくる桜の瞳が、どろりと醜悪に歪められている気がした。
実際は、そんなことない。にっこりとかわいらしく笑う桜。ただ、桜は犀と仲がいい女友達の協力を仰ごうとしているだけ。勿論多少の牽制が入っているかもしれないが、それは、仕方がないだろう。下心が溢れているように見えてしまうのはー…それは、日紅の問題だ。自分が、犀のことを好きな子にとって邪魔でしかないということは重々承知だった。
だって、自分が逆の立場で、好きな人の近くにこんなに仲のいい女の子がいたら絶対不安だ。
犀は、高校に入って人気が出た。
何度か告白もされているようだったが、なぜか今まで「犀と一番仲のいい女」として嫌がらせを受けることも、そんな日紅と仲良くなって犀に近づこうと言う女も、いなかった。
「ね?だから日紅ちゃんに協力して欲しいの。日紅ちゃん、木下くんと仲よさそうだったから。好きな人とか、聞きだしてもらえないかなぁ?」
だから、日紅は油断していたのかもしれない。
ずっと、このままでいられると。日紅と犀と『彼』。三人で、このまま仲良くやっ
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