第六話 海軍軍人その二
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「そして海軍将校となったが当時は戦争中だった」
「第二次世界大戦でした」
「八条学園のこの校舎、当時は木造の校舎だったが」
この辺り時代があった。
「それでもだ」
「こうして憑いておられるんですね」
「地縛霊として」
「待て、私は地縛霊ではない」
日下部は二人に言われた言葉をややむきになって否定した。
「それでは怨霊と変わらないではないか」
「地縛霊って怨霊なんですか」
「じゃあ日下部さんもやっぱり」
「地縛霊は恨みや憎しみ、悲しみを抱いた者が自殺したり事故に遭ったりした場所にそのまま留まるものだ」
一概には言えないがおおむねそうなる。
「例えばこの校舎で自殺したりな」
「けれど日下部さんは三年前に老衰で、ですよね」
「お亡くなりになられたんですよね」
「大往生だった」
日下部は自分の死をこう言った。
「何も思い残すことはない」
「思い残すことなくお亡くなりになられてですか」
「それでも出て来たんですか」
「そうだ。少なくとも私は地縛霊ではない」
日下部はそのことは断固として否定した。
「それは言っておく」
「じゃあ日下部さんってどうしてここに」
「ここにおられるんですか?」
「うむ、ここは私の青春の場だ」
日下部の目が懐かしむものになった。
「経理学校を卒業して海軍将校として軍務に就いたな」
「ここを軍が施設として接収した時にですか」
「その時になんですか」
「そうだ。私の青春は中学からはじまったが」
「京都の中学校ですよね」
「そうだ」
京都とはいっても地元とは限らない。舞鶴jは京都の北の端にあり京都市とはかなり離れている、今も電車でそれなりの時間がかかる。
それは日下部も同じでだ。こう二人に話した。
「京都市の中学にな。親戚の家に居候してだ」
「通っておられたんですか」
「そうしてだったんですか」
「そこから経理学校に入ってだ」
海軍将校になったというのだ。
「卒業後呉にもいたがな」
「ここに来られてですか」
「働いておられたんですか」
「多忙だったが充実していた」
日下部の目は過去を見て懐かしみ、そして満ち足りたものになっていた。
「私の青春の最後の、そして最高の時代だった」
「ううん、海軍お好きだったんですね」
「素晴らしい組織だった」
愛実の言葉にこういった言葉で返した。
「非常にな」
「ううん、それでなんですか」
「大往生の後でこ魂がここに移った」
そうなったというのだ。
「思い出の場所で過ごしているのだ」
「それだけなんですね」
「それだけだ」
聖花の問いにもあっさりと答える。
「私にしてもな」
「先生や学生の人達に危害を加えたりとかは」
「帝国軍人は武器を持たぬ者に刀を抜くことはない」
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