第六話 海軍軍人その十一
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そしてそのうえでだ。こうも言ったのだった。
「ではだ」
「はい、それではですね」
「これで、ですね」
「まだ聞きたいことがあればいいが」
その場合話すことはやぶさかではないというのだ。
「どうか」
「ううん。今のところお聞きしたいことは全部教えてもらいましたし」
「私もです」
そうだとだ。二人は同時に日下部に述べた。
「特に何も」
「ありません」
「では帰るといい」
穏やかでかつ送る言葉だった。
「ご両親も心配する。もう帰って休むのだ」
「それじゃあ今日はこれで」
「お疲れ様でした」
二人はあらためて日下部に言った。そうしてだった。
二人は日下部と今度こそ別れそのうえで帰路についた。やはり小川のところを通る。そこであのガジュマルの木を見て愛実が言った。
「ここよね」
「そうね。ここね」
「ここにそのキジムナーが出るのね」
「その妖怪が」
こう話すのだった。本州にはまずない沖縄の木を見ながら。
「この木のところにね」
「いるみたいだけれど」
二人は木をじっと目を凝らして見てみた。夜だが目はかなり慣れてきている。それでかなり見えるがそれでもだった。
見えるのは木の枝と幹、それに葉だけだった。他にあるものは。
「いないわね」
「そうね。いないわね」
「キジムナー、見えないわね」
「今はいないのかしら」
こう二人で話す。そしてだった。
見えないことに残念に思いながら今はそうしたのだった。
家に帰ってからだ。愛実はその日はそのまま寝た。そして次の日学校に帰ってからこう両親に言ったのである。
「あの、これからだけれど」
「ああ、何だ?」
「どうしたの?」
「これまでトンカツばかり見てきたけれど」
店の厨房の中で言うのだった。エプロンを着て白い長靴を履いたうえで。
「これからはカレーとか肉じゃがもね」
「そういうのも勉強したいのか?」
「そう言うの?」
「ええ。特にカレーね」
日下部に言われたことを思い出しての言葉だった。
「それを勉強したいけれど」
「いいことだな。カレーは人気があるからな」
「いつもよく売れるからね」
笑顔で言う両親だった。
「どんどん勉強しろ。いいな」
「そして美味しいカレーを作りなさい」
「うん、そうするね」
少し微笑んでから言う愛実だった。
「それからね」
「頑張れよ。そうしてな」
「お店のお料理もっと美味しくしてね」
「うん、頑張ってみるね」
愛実は少しだけ微笑んで両親に答えた。そうしてだった。
トンカツだけでなくカレーや他の料理の勉強もはじめた。日下部との出会いから彼女は明るさを取り戻そうとしていた。自分ではそのことに気付いてはいないが。
第六話 完
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