暁 〜小説投稿サイト〜
八条学園怪異譚
第六話 海軍軍人その十一
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

 そしてそのうえでだ。こうも言ったのだった。
「ではだ」
「はい、それではですね」
「これで、ですね」
「まだ聞きたいことがあればいいが」
 その場合話すことはやぶさかではないというのだ。
「どうか」
「ううん。今のところお聞きしたいことは全部教えてもらいましたし」
「私もです」
 そうだとだ。二人は同時に日下部に述べた。
「特に何も」
「ありません」
「では帰るといい」
 穏やかでかつ送る言葉だった。
「ご両親も心配する。もう帰って休むのだ」
「それじゃあ今日はこれで」
「お疲れ様でした」
 二人はあらためて日下部に言った。そうしてだった。
 二人は日下部と今度こそ別れそのうえで帰路についた。やはり小川のところを通る。そこであのガジュマルの木を見て愛実が言った。
「ここよね」
「そうね。ここね」
「ここにそのキジムナーが出るのね」
「その妖怪が」
 こう話すのだった。本州にはまずない沖縄の木を見ながら。
「この木のところにね」
「いるみたいだけれど」
 二人は木をじっと目を凝らして見てみた。夜だが目はかなり慣れてきている。それでかなり見えるがそれでもだった。
 見えるのは木の枝と幹、それに葉だけだった。他にあるものは。
「いないわね」
「そうね。いないわね」
「キジムナー、見えないわね」
「今はいないのかしら」
 こう二人で話す。そしてだった。
 見えないことに残念に思いながら今はそうしたのだった。 
 家に帰ってからだ。愛実はその日はそのまま寝た。そして次の日学校に帰ってからこう両親に言ったのである。
「あの、これからだけれど」
「ああ、何だ?」
「どうしたの?」
「これまでトンカツばかり見てきたけれど」
 店の厨房の中で言うのだった。エプロンを着て白い長靴を履いたうえで。
「これからはカレーとか肉じゃがもね」
「そういうのも勉強したいのか?」
「そう言うの?」
「ええ。特にカレーね」
 日下部に言われたことを思い出しての言葉だった。
「それを勉強したいけれど」
「いいことだな。カレーは人気があるからな」
「いつもよく売れるからね」
 笑顔で言う両親だった。
「どんどん勉強しろ。いいな」
「そして美味しいカレーを作りなさい」
「うん、そうするね」
 少し微笑んでから言う愛実だった。
「それからね」
「頑張れよ。そうしてな」
「お店のお料理もっと美味しくしてね」
「うん、頑張ってみるね」
 愛実は少しだけ微笑んで両親に答えた。そうしてだった。
 トンカツだけでなくカレーや他の料理の勉強もはじめた。日下部との出会いから彼女は明るさを取り戻そうとしていた。自分ではそのことに気付いてはいないが。


第六話   完


      
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ