第三話 人はそれを平穏と言うのだろう
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の声が一瞬で絶望に変わった。
目を手で覆い、のたうち回る。そのあまりにも奇怪な光景に、行き通う女子生徒達からは侮蔑の眼差しを向けられ、男子学生達からは「またか…」などと呆れられている。
本当に精神的にも衛生的にもよろしくない。
(やれやれ…)
今日何度目か解らない溜め息が漏れる。
若者達に悪影響が出る前に、処理しなくてはならない。
月日はしゃがんだ状態のまま、手で口元を隠す。
「アァァァーー!Aaaa――――!!」
未だにのたうち回る鷹見。その動きはホラー映画顔負けである。
そんな彼を救う声が、
「タカ君」
(―――はッ!)
気味の悪い動きが停止する。
鷹見は聞いた。幻聴ではなく、確かに聞こえた。
この声は、
「やあやあ、タカ君。おはようだね! そんな所で寝てると、置いてっちゃうゾ?」
間違いない、あの博士だ。鷹見はそう確信した。
「あああ、あなたは………!束(た○ね)さん? 束(たば○)お姉様ですかぁ!? どこに、どちらにいらっしゃいますか!!?」
たぶん、あれだ。インフィニット・ジャス〇ィスt…………違うな、ロッ〇オン・ストラトス………でもない…………、とにかく!そんな感じの兵器造ったあのうさみみの天才博士の声。それは何よりも鷹見の救いとなる声だった。
お解りだろうが、最早この男に正常な判断などできる訳もなく、周りからすれば、ただただ奇怪である。
「それじゃ、先に行ってるよ♪」
「待ってくださいませ、お姉様! どうかこの哀れな雛鳥をその神々の谷m―――――」
姿なき声の主を追って鷹見は昇降口へと消えた。
「やれやれ…」
静かに立ち上がる月日。残り少なくなった牛乳を飲み干して喉を潤す。
飲み終えたパックを小さく折り畳んでスポーツバックに戻し、新しいムサシノ牛乳を取り出した。
「我ながら、“あの声で喋る”なんて……」
ちょっと後悔したが、鷹見の排除には成功したので、結果オーライという事で納得する。
パックの口を開け、牛乳を胃に流し込む。
一気飲みに近いペースで四分の三を飲み干す。
「俺も行くか」
鷹見絡みで遅刻しましたじゃ洒落になっても笑えない。
月日も昇降口へと入っていく。
彼にとってはこれも日常である。悪友と馬鹿をやりながら、授業を受け、クラスメイトと笑い合う。どこにでもある普通の学校生活。
そんな光景を、人は平穏と言うのだろう。
今日も彼の日常が始まる。
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