第一章 グレンダン編
天剣授受者
日常とは常に面白いものである
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グレンダンの最奥、女王すら入ることができない場所に誰かが立っていた。
その人物は顔に狐のお面をかぶり、和服と呼ばれる今では着るものが少なくなった服装に身を包んでいた。
この場所は世界で最も重要な場所であり、入ったのならば女王か天剣授受者たちが来るはずなのだが誰も来ていなかった。むしろ来る気配がない。
「……いつまで寝てるんだ、この居眠り娘は」
その仮面の、おそらく男は、そこで目をつぶって寝ている少女の髪の毛を撫でる。恋人にするような仕草ではない、妹や家族に対してするような優しい撫でかただった。
しかし少女はすうすうと眠っていて、男には何も反応しなかった。
「そういえば、こいつ返してなかったな、サヤ」
ため息をつきながら腰についている錬金鋼を取り外し、寝ている少女、サヤの隣に投げ込む。
黒一色の錬金鋼、おそらく鋼鉄錬金鋼だろう。
「さてはて、俺も仕事しに行きますか。仕事しないとフェイクにどやされる」
やれやれといった風に頭を降る仮面の男は、指を弾く。次の瞬間、男は忽然と姿を消した。
空間に静寂が満ちる。あとに残ったのは眠っているサヤと黒く光る錬金鋼だけだった。
シノーラ・アレイスラは退屈していた。
シノーラは退屈を嫌う、だからこそわざわざ『シノーラ・アレイスラ』なんて偽名を名乗り、一学生として学校に通うなんていう酔狂なことをしていた。
だが、それも飽きた。授業に出たり、友人を作ったり、うるさい教授のお小言を聞き流し、イタズラをすることに飽きた。飽きてしまった。
そして学校をサボった。そしてもう『シノーラ・アレイスラ』をやめてしまおうと思った。そしてシノーラは本来の自分に戻ろうとしている最中に出会った。そう『出会ってしまった』
「あっ」
「おっと?」
ぶつかってきた相手は少しよそ見をしていたのだろう。危なくシノーラの豊満な胸に激突するところだった。シノーラが避けていなかったらそうなっていただろう。
ぶつかりそうになった人物は子供のようだ。身長差と髪の毛のせいでシノーラから顔が見えなかった。
「ご、ごめんなさい」
「いいのよ、ぶつかってないし、謝らないでちょうだい」
年端もいかない子供に謝られて平気なほどシノーラは傲慢ではない。手を振りながら謝っている子供に大丈夫だと、手で表す。子供は安心したのか、顔を上げてシノーラに表情を見せる。
この日、この時、もしも子供が顔を上げずにそのまま走り去ったのなら、もしもシノーラがそのまま後ろを向き、去っていたのなら出会いは後になっただろう。しかし、この場所ではそうならなかった、シノーラは見た、見てしまった。
長い自分によく似た髪、そしてその顔はシノーラそっくりであった。
息が止まるのをシノーラは感じた、相手もそうなのだろう、表情を固め
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