空白期(無印〜A's)
第二十四話 (蔵元家、幼馴染、男友人、担任)
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いく。序盤は早いものだ。お互いに手が分かっているから。
だから、注意深く思いながらも、隼人は、不意に考える。
将棋において、確かに隼人を相手にできる同級生は翔太しかいなかった。しかしながら、それでも勉強してきた隼人にそう簡単に適うはずもなく、翔太との戦歴は、大体十局打ったのなら、七勝三敗ぐらいで推移していたはずだ。それが、四月の中旬ぐらいから、段々と翔太の勝率が上がり、今では、翔太のほうが勝ち越すということのほうが多くなってきているように思える。
ゴールデンウィークの間に勉強でもしたのだろうか? しかしながら、翔太は隼人ほど将棋に興味があるというわけではなさそうだし、自分に勝つためだけに将棋の勉強をするとは到底思えなかった。だが、それでも戦歴には確かに翔太が強くなった証拠が残っている。どんな勉強をしたのか分からないが、とにかく強くなっているのだ。
―――次こそは勝つ。
それは、勉学で後塵を拝している隼人が持っている最後のプライドとでも言うべきものだった。
◇ ◇ ◇
お先に失礼します、と言葉を残して三年生第一学級の担任である橘京子は、自らの職場である職員室を後にした。島とも言うべき同じ学年の担任が殆ど残っている中をだ。京子は、担任を持っている先生達よりも早く帰っているため睨まれていることは知っているが、仕事が終わってしまったのだから仕方ないだろう。何もしないのに残業代をつけるのも申し訳ないし。
そんなことを考えながら、京子は仕事場である聖祥学園の職員出口から出て、グランド沿いに設置された駐車場へと歩いていた。授業中であれば、どこかの学年が使っているであろうグラウンドも最終下校時間を過ぎた今は、誰もいない。規則で言えば当たり前の光景だが、少し前は、まだ遊んでいる児童がちらほらと見かけられたものだ。そのたびに、自分か警備員の人が注意して回っていたものだが。だが、今日は誰もいない。
原因は、分かっている。おそらく、彼が帰ってきたからだろう。
そんなことを考えながら、京子は自分の車に乗り込み、キーを回す。アクセルを踏むと中古で買った軽―――しかも、後部座席が狭い貨物車がゆっくりと走り出す。
聖祥大付属小学校を出て、車の流れに乗りながら、京子は彼について考えた。
蔵元翔太。京子が担任をしているクラスの学級委員長をしており、三年生の中でトップの成績を誇るいわゆる天才に属する人間だ。
他の担任たちは、翔太を見ると天才だともてはやすが、担任として他の先生よりも身近に接してきた京子から言わせて貰えば、翔太は、どこか異質だった。
彼と出会ったのは、教師として赴任して三年目の春。それまでの態度が認められたのか、第一学級の担任に選ばれたときだ。
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