ALO編
閑話 それぞれの見る彼女
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クされているのを予想していたアスナは少しばかり拍子抜けしつつ、警戒しながら内部を覗き込む。
そこはまるで、巨大なイベントホールのような場所だった。天井は白く発行し、床も同じく真っ白だ。左右の天井はディティールに乏しく、それだけでは遠近感が感じ取れない。しかしアスナの視線の先には、壁や天井以外に遠近感を十分に図れる要素が有った。その部屋の中にびっしりと、そして整然と並べられた……柱型のオブジェクトだ。
恐る恐るそれらに近づく。高さは床からアスナの胸程度の高さまで。太さは両腕で丁度抱え込める程度か。平らなその情面には、わずかな隙間を開けて……人間の脳髄が浮かんでいた。
「っ……!」
色合いは、赤。脳髄が朱く光輝き、その中で何かが次々にスパークしている。他の脳も近い現象を起こしてはいる者の、その脳だけは特にひどく光の明滅を繰り返していた。
脳髄の下に表示されたグラフが鋭いピークを次々に記録し、その横では文字の羅列がログとして凄まじい勢いで下から上へと流れて行く。意味の分からない数字や記号に交じって、PainやFearといった文字が見える。
苦しんでいると、アスナは直感的にそう悟った。
痛みや恐怖を直接脳の中に叩き込まれ、苦悶の表情と共に誰にも聞こえない悲鳴を上げる“誰か”の顔が、彼女の眼にははっきりと思い浮かんだのだ。
しかし不幸な事に、彼女にとってその誰かは、顔も知らない見知らぬ人物ではない。
「……え」
不意に湧いた声。原因は、彼女の眼前にある円柱状の、ログが表示されているその更に下。柱その物に、文字が彫られているのだ。
《No.152 Miyuki Asano》
「みゆき……あさの……?」
それを見た途端、アスナの脳内にあの楽しく今は輝かしい思い出となった日々の一ページがありありと思い出される。
────
『でだ……そんとき後ろから……』
『やーーーー!いやーーーーーー!!!聞きたくない聞きたくない!!』
『あ、アスナ。落ち着けって……』
『リョウ、やっぱりやめようよ怪談なんて。季節外れだし、アスナ可哀そうだよ……』
『分かってねぇなぁサチ。その怖がる顔が面白……』
『ご飯抜き……』
『すみません勘弁してくださいミユキ様……』
────
あの時、リョウが偶然漏らした、あのサチの本名であろう名前と、此処に刻まれた、この名前。
ミユキと……Miyuki……
「サチ……なの……?」
呟いた言葉は、自分の声だっただろうか?それすら、アスナには分からなくなりそうだった。別人の可能性もあるには有る。しかし、一度そう思ってしまうと、考えが拭えない……そして幸か不幸か彼女は知る由もないが、彼女の予想は完全に的中してしまっていた。
「そん……な……」
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