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戦国御伽草子
壱ノ巻
文の山

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ぱたっと雫が落ちた。



銀色の鈍い輝きを隠して、雫はそれを伝い落ちてゆく。



障子に飛んだ緋。染め上げられた畳。



微塵(みじん)も動かない義姉上と義母上。



そして。



血塗れの刀と、赤を全身に纏って立っているのは、発六郎(はつろくろう)だった。



そのくちびるが、微かに瑠螺蔚と動くのを見た。



なに、これ。



あたしは白昼夢でも見ているの?



「発、六郎…」



発六郎が、姉上様と、義母上を斬ったの?



発六郎が…。



発六郎の手が、あたしに向かって伸びる。



「あんたー…家に来たのはこのため?義母上と義姉上を殺すため?それともーー…あたしを殺す、ため?」



伸ばされた手が、虚空で止まった。



そうなのか。



あたしはふっと笑った。



こんなときなのに、昨夜のことを不意に思い出す。



発六郎と、初めて言葉を交わしたとき。



夢をみて、震えていたあのとき。



「あのとき、あんたが傍にいてくれて嬉しかったのに」



小さく言って、あたしは顔を上げた。



義姉上と、義母上を斬った発六郎を許すことは出来ない。



あたしもこんなところで死ぬ気はないし、このまま発六郎が兄上や父上を傷つけないとも限らない。



「あたしも殺すのね」



瑠螺蔚(るらい)



発六郎が顔を上げる。口を開く。酷く苦しげな顔。



でもそれもお芝居かもしれないわよね。



だって、あんたはあたしに優しくしながら、こうして義姉上達を斬ったのだから。



酷く裏切られたような気がしてあたしはふっと(わら)った。



ばかみたい。裏切られたって何?あたしが、ただ勝手にいい人だなんて思いこんでいただけ。



「あんたに名なんて呼ばれたくない」



あたしは護身用の懐刀をすらりと抜いた。



「!」



発六郎が一歩下がった。



懐刀と、大刀。それに加えて女と男と言う力差もある。こっちが不利なのは、火を見るより明らかだ。



それでも、あたしは殺されるわけにはいかないのだ。



あたしはちらりと義姉上達を見た。



早く、片をつけないと・・・・。



それから、改めて懐刀を構えた。



発六郎がそんなあたしを見て、ゆるく息を吐き出した。



「…」




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