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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十九話 我ら主導者に非ずとも
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守原英康も西原に利益を配分するよりは元々自家の領土であった背州を本拠地にしている宮野木が強まる方がましだと考えているのだろう。
もちろん宮野木も守原も互いを信頼などしているはずもないがそれでも守原は宮野木の方が西原よりも御しやすいと考える筈だ。何しろ背州鎮台の内にも守原陪臣が要職に在任している、何方が主導権を握れるのかは明らかだろう。

「辺境の強者より近くの弱者、か。守原英康大将閣下は我々すらも辺境の蛮族あつかいしている圧倒的な強者が攻め込む準備を整えている事を忘れているのだろうか」
荻名も鼻を鳴らしている。

 西原家の実力は宮野木よりも高い。古くから西領の実権を握っているだけあり、
駒城≧守原>西原>>他の二家
と、五将家間に出来た実力の序列はこの太平の二十五年間にほぼ確立している。
 これは広大な東州の復興の為に家産が破綻しかけていた安東を除けば概ね己の領土に抱える鎮台の規模に比例している。駒城が政治的に失脚したら守原家が実力が伯仲する二家を〈帝国〉軍の矢面に送り出すだろう。

「あまりに素早く逃げ――転進なさりましたからね。〈帝国〉兵は碌に見ていないから気がついていないかもしれませんな」
軽口を叩きながらも馬堂中佐は守原の構想について思考する。

 ――守原英康の行動指針はなんだ?既に北領の奪還は不可能だ。であるからには奴は何を望む?負担の軽減だけか?それとも護州公爵家が財政破綻で失脚などという不名誉を避けるための早期講和?

 否、と豊久は首を振る。

 ――だが負担の軽減はまだしも早期講和は〈帝国〉周辺国が動かない限り単独では不可能だ。で、あるからには可能な限り駒城が主導権を握り、絶望的な戦いを続けるしかない。
万が一駒城が消耗し、政治で敗北しても馬堂家が有力でいられる様に庇護者が必要だ。

「兎に角、今日は新任副官の頃みたいに閣下の後ろで黙っていますよ」
そう云って堂賀に苦笑を向けながら脳裏でさらに算盤を弾く。
 ――西原にとって対抗手段として駒城の存在が強力過ぎない程度に存在している事がもっとも都合が良い状態だ。だからこそ、何方にも表立って肩入れする様な事はしないだろう。
 ――故に西原が自勢力の確保の為に欲しているのは今現在駒城と友好関係でありながら、駒城からある程度距離をとる、或いはとる必要がある存在。そして軍中枢の情報を知りうる有力者 ――だから堂賀准将か、協力関係にある馬堂家も上手く運べば――。

「それでも構わんがね。分かっていると思うがお前も英雄扱い、要するに悪目立ちしている事には変わりない。
黙っていればやり過ごせるとは思うなよ」
 堂賀はかつての部下の言葉に肩をすくめて応じた。

「それに例の育預を使った奏上の件もある。若殿様は爆笑してたが――名誉である事には変わら
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