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くらいくらい電子の森に・・・
第六章 (2)
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「なっ……何するんだ、その人、仲間なんだろ!!」
「はん、これだから女は使えねぇんだよ。…もう交渉の余地なんかあるか、こいつらを『あいつ』の代わりに使って、あいつは病院に返す、それで万事終了だ!!」
「さっき聞いたでしょ!この子たちには家族がいる、すぐに足が着くわ!!」
「だからどうした」
「……!!」
「家族に愛され続けた甘えん坊の田舎娘が、都会に出て悪い遊びにハマってすっかりヤク漬けのラリパッパになって新大久保で立ちんぼ中に家族がハッケーン、なんてのはよくあることだろうが!そのころにゃ、すっかり廃人になって俺達のことは覚えてねぇよ!!」
柚木の顔が、さっと青ざめた。…そうか、女の子は死ぬだけじゃ済まないのか…。僕は柚木を後ろにかばいながら、カバンの中身を思い返した。…ノートパソコンと、フリスクと教科書くらいしか入っていない。
何か武器になるものがあれば、こいつを脅して柚木だけでも逃がせるのに……。自分の用意の悪さに舌打ちしたくなった。
「さ…最低……!!」
「もちろん、俺達が散々マワしたあとにな!!そっちのガキはマグロ漁船に乗せて、船長に金掴ませて太平洋の真ん中で水葬だぁ!!…知ってるか?船長はなぁ、船内で死人がでたら海に棄てる権利があるんだぜ!?…都会ではなぁ、誰が消えようが証拠隠滅の方法なんざいっっくらでも……っ」
「うひょあっ!」

<i320|11255>

ズガン、という鈍い音と共に、男の怒鳴り声が低い呻きに変わった。震えながら崩れ落ちる男の背後に、信じられない人が現れた。

「……鬼塚先輩!!」

男を撥ね飛ばした鬼塚先輩は、おろおろしながらボロいランドナーから降り、僕たちを見回した。
「いやすまん!…なんだかあそこから、急にブレーキが利かなくなってな」
鬼塚先輩は、背後の長い坂を指さした。
「どうもご迷惑を……あれ、動かないなこの人…あぁ、やばいかもな、脳震盪起こしてら…おや表情硬いな、姶良よ。お取り込み中か?…ん、なんだそっちの方は、ロープを斜めに構えて…」
柚木に縄をかけんとしていた細身の男が、小さく呻いて後じさった。
「まったく危ねぇな、このブレーキが…おや、利くぞ、えい、えい」
呑気にブレーキの利き具合を試していた鬼塚先輩が、ふいに神妙な面持ちで顔を上げた。
「…なぁ、姶良よ」
「は…はぁ…」
急転した状況がよく飲み込めないけど、とりあえず返事をする。鬼塚先輩は満身創痍の僕をじっと見据えて、眉をしかめた。月の光が逆光になって、眉の動きしか見えない。
「……お前の自転車、屠られたな」
「……!」
なんで分かったのだ、と問い返す前に、鬼塚先輩はグイとランドナーを引いて、僕の足にタイヤを押し当てた。
「…なっ」
「何か、起きてるんだろう。…こいつは、そういうモノなんだ」
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