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くらいくらい電子の森に・・・
第六章 (2)
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アーチは伸び続ける。
ざまをみろ、永久に酒臭い人間アーチに囚われ続けるがいい!

サークルの喧騒からのがれて、僕たちはしばらく歩いた。警察を呼ぶとか、病院に駆け込むとか、やることは盛り沢山だ。でも、なぜかそういう気が起きなかった。思考回路が停止寸前だったのかもしれない。
月は天頂近くまで昇っていた。携帯を見ると、もう8時を回っていた。
結局あのオムライスは何だったんだ、とか、あの連中は一体なんなのだ、とか、言いたい事は山ほどあった。でも全身がけだるくて、柚木の肩にもたれ掛って歩くのが心地よくて、なんか全部どうでもいい。
「…救急車、呼ぼうか」
僕の返事を待たず、柚木が携帯を取り出す。それなら少し休ませてもらおうかな…と、目を閉じた瞬間、カツン、という物音に瞼を開く。
「…携帯、落ちたよ」
「……姶良……!」
柚木の肩が、瘧のように震えだした。鼻先をかすめる、排気ガスの匂い。車がアイドリングしたまま停止する気配と、駆け下りてくる数人の足音。月の逆光で姿はよく見えない。でも、まっすぐに僕らを目指して歩いてくる足取りに、確信は強まった。
「……またか……!」
痛みと眩暈で、気が遠くなった。僕たちは数秒後、確実に奴らに捕まる。喉が干上がって、鼓動が早くなった。…次第に強まっていく激痛の中で、僕は初めて紺野さんを恨んだ。
――なんで、僕らがこんな目に。
一人、柚木の脇に立つ。もう一人、僕の脇に立つ。正面に回り、静かに僕らを見下ろしているのは、彼らの中で一番年少と思われる若い男だった。柚木が、僕の肩に寄り添うようにして、静かにしゃくりあげた。
「…なんで柚木を?」
男達は、誰一人答えようとしない。声を上げるのを恐れているように。念願の獲物を追い詰めたというのに、声を荒げるでもなく、獲物の腕をねじりあげるでもなく、ただ逃がさない程度の距離を保ったまま、こっちの出方を待っている。僕らが暴れだし、「やむを得ず」暴力で抑える瞬間を待つように。僕は、直感的に悟った。
――こいつらは、何かに怯えている。
気付いた瞬間、恐怖心がじわりとほどけて、頭が氷のように冴え渡った。こんな状況で、おかしいけれど……

彼らの怯えに、つけいる隙がありそうな気がした。

柚木を軽く後ろにかばうと、僕は正面の男の、目のあたりをじっと見つめた。
「…柚木は全く関係なかったんだ」
「…………」
「何を勘違いしたのか知らないけど、紺野さんの協力者は、僕だよ」
男達の影が、大きく揺らいだ。表情は見えないけれど、明らかに僕らへの抑圧が薄らいだ。…やがて、僕の横に立った男が、搾り出すように呻いた。
「…どういうことだ!」
正面の男がうろたえたような声を出す。
「そんな…私はMOGMOGをトレースして…!」
意外と声が高いな、もしかしたら、女かもしれない…
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