第六章 (1)
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届くような距離に。突然、鋭い激痛が胃の辺りにじわりと広がった。さっき自転車で吹っ飛んだ時、打ち所が良くなかったのかもしれない。すごく嫌な予感がする痛みだ。
「抜けた!」
柚木の声に、突然我に返る。
「そのまま走れ!!」
振り向きざまに、足止めに農具を蹴り倒す。そして先刻もいできた竿の片割れを振り上げて、通路の出口近くに積んであった大袋にたたきつけた。袋が破れ、白い粉塵が狭い通路を満たした。後方から轟くような金属音と、くぐもった悲鳴が聞こえた。急に視界をふさがれて、倒した農具のどれかに足をとられたんだろう。
「斧じゃありませんように…」
寝覚めが悪くなるから。
「姶良!」
じれたように柚木が叫んだ。僕は粉がかかった顔を軽くぬぐうと、再び駆け出した。
僕が駆け出して間もなく、後方から大きな水しぶきが上がった。
いぶかしげに振り向いた柚木が、目を剥いて異様な光景に見入る。
頭から粉塵をかぶった奴が二人、路地裏の用水路に飛び込んだのだ。
「…あれ、なにやってるの!?」
柚木が、追いついてきた僕に当然の疑問をぶつけてきた。さっき通路を歩いて、大分呼吸が落ち着いている。
「……あれ…ね……生石灰……あそこの家主、農業に凝ってて……」
「あの粉が?…粉塵爆弾ね!!」
目を輝かせて物騒なことを言い始める柚木。
「……いや、そんなことしたら死んじゃうから……」
「殺しちゃえばいいじゃん!」
「…だめだからね!」
長いこと走らされて、気が立っているようだ。…この娘を1人で逃走させなくて、本当に良かった。さっきの農具路地あたりが猟奇な風景になってるところだった……
「まぁいいわ。…で、あれ、なにがあったの?」
「……水も、かけただろう、さっき……」
土質改良に使われる生石灰は、水とまじわると発熱する。さっき雨どいを叩いて振りかけた水と、路地でかぶった石灰が反応して、肌に火傷に近い症状が出ているはずだ。
「目に入ったら失明が怖いけど…サングラスしてるから大丈夫だろ」
「失明しちゃえばいいのに!…でも軽い火傷でしょ?なんで川に飛び込んでるの?」
もうすぐ大通りに出られる安堵感も手伝ってか、柚木がにわかに元気に喋りだした。僕は…胃の引きつるような激痛をこらえて、ようやく言葉を搾り出す。
「…彼らは、軽い火傷なんて思わないよ」
「え?」
「正体不明の粉末が体について、ついた所が火傷しはじめたんだよ……」
激痛に、息があがってきた。言葉が続かない。…そのへんの説明は逃げ切ってからにしてほしいけれど、柚木のじれったそうな横目に促されるままに仕方なく、口を開く。
「シャレにならない、大変な劇薬でも掛けられたかと勘ぐるのが普通でしょ……」
「へー…姶良、やるじゃん!」
柚木が僕を褒める声も、遠くに聞こえる。激痛が脈打つ
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