第六章 (1)
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!?」
僕は答えなかった。
柚木も、それ以上聞かなかった。
執拗に追ってくる「奴ら」が一体誰なのか、何の目的で追ってきているのか、何一つ分からない。最悪の場合、馬鹿な奴が開設した「殺し請負サイト」のヒットマンか何かで、助けを求めに立ち止まった瞬間、殺されることだって考えられる。
「……その先、左」
恐怖を押し殺して、呟くように言った。柚木も息を喘がせながら頷き、左側の隙間に飛び込む。入り組んだ路地を背中を丸めて走り抜け、都市開発から取り残されたような寂れた長屋が並ぶ細道にまろび出る。僕は少し目線を上げた。
「…前に雨が降ったのっていつだっけ」
「こ…こんなときに…なに言ってんのよ」
柚木が肩で息をしながら、途切れ途切れに応じた。
「気でも…触れたの…?」
「…まぁいいや」
走りながら、土中に半分埋まり、錆びてうち棄てられた物干し竿を拾いあげた。竿を覆っていた枯葉が舞い狂った。
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「…武器!?」
「こんな狭い路地で物干し竿でやりあってどうするんだよ」
聞こえないように呟くと、後ろを振り返った。後方5m前後の植え込みが震え、奴らが飛び出してきた。僕は一瞬スピードを緩めて物干し竿を垂直に振り上げた。僕に合わせて速度を緩めようとする柚木を強く押し返す。
「先に行って。すぐ追いつく」
「なにする気!?」
柚木の言葉が終わるのを待たず、長屋の腐りかけて傾いだ雨どいに叩きつける。長屋一棟をぐるりと取り巻く雨どいが「わわん、わわん」と共振する。すると、雨どいに残っていた雨水が、大量に奴らの上に降り注いだ。
「…よし」
きびすを返して再び駆け出す瞬間、腐った物干し竿がブロック塀につっかえ、「ばきばきばきめきゃりっ」と大げさな音を立てて割れた。僕は短い方をむしり取ると、全速力で柚木を追った。
「…雨どい叩いただけ!?」
僕が追いついてくる気配を察して、柚木が叫んだ。
「…っそうだよっ……」
…息があがって、一言返すのが精一杯だった。でもそれは柚木も同じだったようで、それ以上の文句は返ってこない。
「…すぐ右に曲がって」
柚木の左側に回って、右側の路地へ促す。…が、一瞬たたらを踏んだ。
「…ここ、通るの?」
狭い路地に散乱する、鎌や鋤などの錆びた農具が薄闇に浮かび上がる。余所見などしたら、血を見るような大怪我に見舞われてもおかしくないだろう。
「ここを抜けると大通りが近いんだ。人がいるかもしれない」
僕の言葉が終わるのを待たず、柚木は危険な路地に駆け込んだ。
乱雑に放置された鍬や斧の隙間を縫うようにして進む。10mもない長屋の裏路地なのに、無限にも続くように感じてきた。刃物の海の中、後ろを振り向く余裕なんかないけれど、喘ぐような呼吸がすぐ後ろに迫っている。…多分、もう少し手を伸ばせば
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