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くらいくらい電子の森に・・・
第六章 (1)
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背中を貫いた衝撃に、肺の空気を全部吐き出した。
「姶良!?」胸の下あたりで柚木の声がする。よかった…怪我はないみたいだ。ひどい頭痛と、視界がかすむのをこらえながら、上半身を起こした。
「……悪い、車輪で石を踏んだみたいだ……あいつらは」
「まだいる!坂を下りてきてるよ!」
「……じゃ、こっちだ」
視界がぼやけて、足元がふらつく。…でも、方向感覚は衰えていない。僕は柚木の手を引いて、シャッターが下りた古本屋の脇道に駆け込んだ。
「車で、ここは通れないだろう」
「……駄目、来るよ!」
街灯の薄暗がりに停められた車のドアが開け放たれ、数人の男が駆け出して来た。僕らが逃げ込んだこの路地を、まっすぐ目指している。首筋が、ぞくりとした。…早い。女の子の柚木と満身創痍の僕では、すぐに追いつかれる。
「何で、ここまでやるんだよ……!」
「わからないよ!全然知らない人たちだもん!」
「…次の角、右ね」
「角!?角なんてどこにも…」
「そこの、隙間」
駆け抜けようとする柚木の腕を強引に引いて、古い家屋とビルの隙間に潜り込む。ワケがわからない柚木が、抗議しようと口を開いたところをすばやく制して叫んだ。
「ちょっとジャンプして!」
「えっ!?」
反射的に飛び上がった柚木を引っ張って、次の角に駆け込む。数秒後、背後で鼻を引っぱたかれた犬のような悲鳴と、トタン板に激突したような轟音が響いた。
「な、なに、どうしたの!?」
「漬物石だよ」
「…は?」
「ここに住んでいるおばあさんは、漬物石を隣との隙間に放置しているんだ。多分、それに躓いて…」
「…………」
「日も落ちてるし、足元の漬物石なんかに気付かないだろう。…ありゃ爪先からいったね。相当痛かったはずだよ」
「……地の利どころの話じゃないくらい詳しいね」
「…あー、まぁ…」
適当に言葉を濁してやり過ごした。

―――ポタリング部では、たまに有志で「タイムトライアル大会」を開催することがある。スタート地点とゴール地点だけを決めて、脚力と土地勘のみをたよりにタイムを縮めるというシンプルな大会だ。地図上で最短ルートでも、実際に走ってみると坂道が多くて却ってタイムロスになったり、地図には載っていない抜け道(多くは私有地)があったり、前もって調べておいた抜け道に敵がトラップを仕掛けていたりして奥が深い。脚力に自信がある輩は下手な小細工を弄さずにスタンダードな道をいくけれど、僕のような連中は、日々調査を繰り返して最短かつ有利なルートを探るのだ。だからこそ、僕らの土地勘は並大抵じゃない。
ちなみに、柚木を始めとする『おしゃれ街乗り派』は、こんな馬鹿な大会には参加しない。

「これで一人はリタイアだね!」
「…でもこのままじゃ、もうすぐ追いつかれる」
「どこかの民家にでも駆け込めないの
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