第六章 (1)
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良くやれよ……
…………
…………なんだその変質者みたいな服装は!?
いや、もしかして本当に変質者じゃないのか?僕は「空虚な洞」からいそいそ這い上がって目前の光景に目を凝らした。
開いているドアは自動車の後部座席。彼女をエスコートするにはちょっと不自然じゃないか。そして…後部座席から伸びた腕は、柚木の腕を、がっしりと捉えていた。
……運転手と後部座席の男…少なくとも2人以上の人間がいる……?
掴まれたほうの腕を振りほどこうと足掻く柚木に、後部座席の男が短刀を突きつけた。ビクリと動きを止める、柚木。
気がついたら僕は、黒い車に向かって突進していた。
僕に気がついた柚木が、再び必死の抵抗を始める。男は、猫の子でも取りこぼしたように慌てふためいて空を掴む。その間隙に、僕の自転車が突っ込んだ。刃が自転車のボディに当たり、カリッと音を立てて地面に転がる。
「柚木、乗れっ」
「何処に!?」
戸惑う柚木を腹から抱えあげ、フレームに横座りさせて地面を蹴った。自転車は少しよろめいて走り出す。僕は無理やりギアを最大にチェンジして踏み込んだ。ひどく重い感触と引き換えに加速を得る。心臓が、気が違ったみたいに早鐘を鳴り響かせ、踏み込む足がガクガク震えた。……確かにこれは神の采配だ。失敗は、死んでも許されない。
「つかまって!後ろ確認お願い!!」
柚木はバランスを取りながら僕の腰にかるく手を回すと、僕の脇から頭を突き出した。
「…追ってくるよ!!」
「まじか…最近の変質者は根性あるな!」
「ばか!あれ変質者とかじゃないよ!!」
「……どっちにしろ、弱ったな……」
甘かった。公園出たら諦めると思っていた。こんな重いギアで、柚木を乗せて長続きするはずがない!…僕は進路を変えると、ギアを一段ずつ元に戻した。
「なんでギア戻すの!?」
「この先に長い下り坂がある。そこを抜けても追ってきたら」
一旦言葉を切り、もう一段ギアを軽くする。
「自転車、棄てるよ」
柚木は唇をかみ締めると、僕のほうに身を寄せて視線を前に戻した。重心を少しでも後ろに移してくれたみたいだ。坂はもうすぐ目前…僕はギアの、最後の一段を戻した。
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がくん、と車体が傾いで、吸い込まれるように加速していく。風が頬を切るみたいに冷たい。目を細めて、柚木越しに前方を確認する。今のところ障害物は何もない…そろそろ、坂道が終わる。少しずつブレーキをかけつつ、柚木に視線を落としたその時、
「キャァッ!!」
柚木の悲鳴の直後、天と地がひっくり返ったような浮遊感に襲われ、空中に投げ出された。視界をよぎった柚木の体を引き寄せて必死に抱え込む。僕達の体は宙を舞い、正面の古本屋のシャッターに叩きつけられた。
「ぐぶっっ」
叩きつけられた瞬間、
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