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くらいくらい電子の森に・・・
第六章 (1)
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にも引っかからないような中古品を格安で買って、割のいいパーツを見つけるたびに改造を繰り返し、何が何だか分からないことになっている我が愛車。中核をなすフレームすら、先輩から譲り受けたブランド不明の謎フレーム。黒くペイントされているので確実じゃないんだけど……形から考えると……多分、ラレーのような気がしないでもない。

変な自転車……。

好天の下、磨きたてのこいつを見たときは『なんてカッコいいんだ!』と錯覚したけど、夕暮れ時、こんな気分でまじまじと眺めると、本当に変な自転車だ……。冷たいサドルにまたがって、ゆるゆると漕ぎ出す。

もう下宿に帰って寝てしまおう、と一瞬思った。事あるごとに引きこもる、この性癖。いつも僕を変な方向に追い詰めているのは、僕自身のこの性格なのかもしれない。
今日は思い切って、部屋に帰らないことにしてみようか。…いや、こんな甚大なダメージを受けている時に自分改造している場合か。とりあえず今日は下宿に帰って寝るべきか……

決心がつかないうちに、僕は下宿近くの、人気のない公園付近についてしまった。…この辺が妥協点かな。なんとなく自嘲的な気分になりながら、公園に自転車で乗り入れる。すると、10mほど前方の歩道を、マフラーを緩めに巻いた女の子が横切った。長く伸びた木立の影でよく見えないけど、何となく気になって目を凝らす。

「……柚木」

…これは、神の采配か。
このまま走り去るか、ちょっと声をかけてみようか迷った。柚木がマフラーの下から、コートの前をかき合わせる。同時に一陣の寒風が頬を打った。

―――風、強いね。寒いから、うちで珈琲飲みながらゼルダやろうか。

いや、なんだその終わってる誘い文句は。そもそも「ヨーデル食べ放題」大音量で流して教室から逃亡した僕がひょっこり現れて「ゼルダやろうぜ」とか、しれっと吐いたら一体どんな目に遭わされるんだ……
横切ろうとした柚木の前に、黒い乗用車が停まって、ドアが開いた。
柚木が、足を止める。夕日の逆光で、表情は見えない。

……な―――んだ、そういうこと。

体中が、弛緩していく感覚。つまり、こういうことか。
柚木には、彼氏がいたんだ。
こんな珍妙な改造自転車なんかじゃなくて、かっこいい車を持った彼氏が……
オムライス一つに舞い上がって自転車磨いたり、柚木の足音に一喜一憂したり…あれは、完全に僕の一人相撲で…僕が入り込む余地なんて、最初からなかったんだ。

……恥ずかしい。

ここ数日の色々な葛藤が、砂上の楼閣のように崩れていく。悲しい…とかじゃない。そこにすら辿り着けないくらい、深くて空虚な洞に、滑り落ちたような感覚。自転車なんて、いますぐここに棄てて、下宿に帰ろう……

さよなら、柚木。黒ずくめにサングラスとマスクを掛けた彼氏と、仲
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