第六章 (1)
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だめっ!!」
「……なんで?…やっぱり、邪魔なんだ……」
ビアンキは視線を下にさまよわせる。
「いや違うんだ!ほら、これは……」
こういう微妙な問題を、どう説明すればいいのか……一瞬、視線が宙をさまよう。僕がおろおろしている間に、ビアンキの雲行きがまたぞろ怪しくなっていく。…しかたない。僕はノーパソをぐっとひきよせると、抱きかかえるようにしてカメラに顔を近づけた。
「このことは、ビアンキと僕の、二人だけの秘密、だからだよ」
言ってる自分もワケが分からないが、どうか雰囲気に飲まれてくれ!と祈るような気持ちでカメラを見つめ続ける。
「二人だけの、秘密?」
彼女の頬が、ぱっと桜色に染まる。どういうプログラミングなんだか超気になるが、ともかく機嫌は完全に直りつつあるみたいだ。
「私とご主人さまの、二人だけの秘密!?」
目を輝かせて繰り返す。僕は何度も頷き返し、マウスで頭をなでた。
「この仕事が終わったら『おやつ巡り』しようか」
ビアンキの目の輝きが、瞬時に倍になる。……『おやつ巡り』というのは、最近、ビアンキが気に入っている遊びのことだ。なんということはない、可愛いスイーツの画像が掲載されているサイトをめぐる。それだけの遊び。ビアンキは気に入ったスイーツの画像をダウンロードしておいて、僕に作ってくれたような3Dを作る。そしてそのうち、ウイルスを食べるアニメーションに、その3Dが登場したりするのだ。
「私、赤くて可愛いおやつがいいです!」
…味覚がないから当たり前なんだけど、彼女のおやつの基準は『可愛さ』のみ。だからいくら美味しくても、板チョコや焼き芋なんかは造形的にダメらしいのだ。
逆に可愛ければ、思わぬものがおやつ認定されてしまうこともある。いつだったか、ビアンキが青い石のブローチをバリバリ食っててびっくりしたことがあった。でも食った断面は、ふかふかのスポンジとクリームだった。
ビアンキは早速上機嫌になり、『ヨーデル食べ放題』を口ずさみながらむしった壁紙にぺたぺたと絆創膏を貼っている。そのうち、遠くの方でくぐもったチャイムが響いた。終業だ。
「……はぁ」
ついても仕方ないのに、ため息が出る。
教室に戻ると、柚木が一人、席に残っていて……
僕に向かってちょっと不機嫌な顔で「……遅い」とか言ったり
そんな空想もしたけど、柚木の性格を考えれば普通に帰ってしまっていることは明確だ。僕は引き続いてのGoogle張り込みをビアンキに頼むと、そのまま机に突っ伏した。
人気がない駐輪場の空気は冴え冴えとして、冷気が首筋に突き刺さる。空はいつしか、鉛色に淀んでいた。そろそろ日が暮れるな。冬の日は、つるべ落としだ…
自転車のチェーンをはずすと、寒気に晒されたアルミの冷気が、噛み付くように僕の手に張り付いた。
箸にも棒
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