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くらいくらい電子の森に・・・
第六章 (1)
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掻き毟りたくなった。

僕のノーパソから、桂 雀三郎の伸びやかなヨーデルが、大音量で教室中に響き渡った……受講している学生が全員、バッと僕の席を振り返る。

カツカツと軽快に響き渡っていた教授のチョークが、ぴたりと止まる。
『焼〜肉バイキング〜で〜食べ放題〜〜、食べ放題ヨレイヒ〜〜♪』
「ばっ……」


やっ……やめて―――!! お願いだからもう静かにして―――!!


僕は慌ててノーパソをひっつかみ、こじ開けた。
「な、何のつもりだ、よせビアンキ!!」
ビアンキは、夢からむりやり叩き起こされたような呆け顔で僕を見上げた。
『えと…ご主人さま、すぐ閉じようとしたから、アピールが足りなかったかなって…』
「…………」
こわごわと視線を上げる。……教授は、緩慢な動作で振り向くところだった。緩慢なので、振り向ききれていない。
…そして不意に、首の後ろがチリチリした。……どす黒〜い瘴気が、斜め後ろから僕のうなじあたりに突き刺さる。す、すごい威圧感だ……姿を見せずに、僕をこれだけ圧倒するとは……。

……恐ろしくて、もう爽やかに振り向くなんて出来ない……

『そ、それで…ご主人さまが、うれしい時によく口ずさむ《ヨーデル食べ放題》を…』
僕の恐怖の形相から、どうやら『のっぴきならない状況に陥っている』ことを察したビアンキが、こわごわ画面の端からレースのカーテンを引き出した。そしてカーテンをシャッとすばやく引くと、ぷるぷる震えながら隠れてしまった。
「……あっ!こら出て来い!隠れるな!!ヨーデルどうするんだよ!!」


「僕は、逃げも隠れもしませんよ」

げっ……

「ヨーデルをどうするおつもりか、聞きたいのは僕のほうです……」
ふたたび、こわごわと視線を上げる。…田宮教授は、振り向ききっていた。

「……おもわずヨーデルを大音量で流しちゃうくらい、僕の授業はつまらない、と?」

どよめく教室の中、僕だけがエアポケットに落とされたみたいに、周囲の音がフェードアウトしていく…頭のてっぺんが渦を巻く。ぐるんぐるん周り続ける、ぐるんぐるん……いけない、このままヨーデル食べ放題を垂れ流しながら卒倒でもしたら、僕のこの教室でのあだ名は「ヨーデル」に決定してしまう…!!

「……いや、あの、違うんです! う、ウイルスなんです!ウイルス!!」

咄嗟に思いついた言い訳を口走りながら、教科書とノートをババッとまとめ、ヨーデルを奏で続けるノーパソをカバンに押し込み、急いで立ち上がった。
「なんか止まらないんです!ウイルスみたいで…あの、ご迷惑になるので出ます!」
「……ウイルス。なんか、大変だねぇ」
教授は、呆けたような顔で僕を一瞬目で追うと、また緩慢な動作で黒板に向き直った。僕はカバンをコートでくるむと
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