ALO編
閑話 見えない場所で
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翌日の午前八時ごろ。二階から下りてきた直葉は、玄関先で靴を履こうとしている涼人と鉢合わせになった。
「あれ?りょう兄ちゃん出かけるの?」
「あぁ。まぁな。ちっと検査言ってくるわ。」
「またぁ!?なんでお兄ちゃんの検査は終わったのに、りょう兄ちゃんのはいつまでも続くのよ……」
「俺じゃなくて検査する人間に聞いた方が確実な答え返ってくると思うぜ。あ、昼飯は食って来るから。んじゃ、言ってきまっす」
「行ってらっしゃーい」
後ろ手に手を振った涼人を、直葉は片手を上げて見守る。玄関から入ってきた冷たい空気に、直葉の背筋が鳥肌を立てた。
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「ん〜んんん〜ん〜ん〜♪」
鼻歌を歌いながら、涼人は自転車を走らせる。これから行く場所へは電車以外の理由でも多少時間がかかるが、約束もはやめておいたので何とか集合には間に合うだろう。
『っま、検査が長引かなきゃ、だけどな』
実を言うと、先程直葉にされた質問は非常に答えづらい。何故ならば今受けている検査とSAO事件とは、直接的な関係性はかなり薄いからだ。寧ろ涼人個人の問題による所が大きいのだが、それを言うと和人や直葉に無用な心配をかけそうで面倒なため、現在これにこの検査に関する事実を知っているのは叔母の翠と叔父の峰嵩、姉である玲奈だけである。
「んじゃまぁ、さっさと帰ってきますかねぇ……」
今日は酷使されるであろう頭をリラックスさせながら、涼人は更にペダルを踏み込んだ。
────
彼女は、闇の中に居た。
暗く、前も後ろも見えない、深く先の見えぬ世界。
自分が誰であるかはぼんやりとした意識の中で何とか分かるような気がしたが、それ以外は何も分からなかった。
突然、何かが、彼女の中に侵入ってきた。
それは、痛み。この上なく純粋な、唯の痛み。
痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ…………!!!!!
悲鳴を上げようにも声を出す事は出来ず、脳の中に直接侵入り込み己の中を蹂躙する痛みに、彼女は唯耐え、あえぐ事も出来ずに犯されることしか許されない。
本来ならば限界をはるかに超える純粋であるがゆえに残酷な痛みの奔流が、絶えることなく押し寄せ続ける。
『■、ょ……■……』
暗闇の中、彼女の脳が途切れ途切れの彼女の思考が意味ある言葉を吐きだせたのは、たった一言だけだった。
────
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