第五十話 帰郷その十六
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「だからよいのじゃ」
「それでだな」
「そういうことじゃ。それではじゃ」
「今だな」
「食べることじゃ」
実に具体的な言葉だった。
「そして飲むことじゃ」
「このアップルパイとアップルティーをか」
「食べることもまた、じゃ」
「人間でいさせてくれるか」
「食べるという行為は」
どうだとだ。博士はそれについても話した。
「実に生物的な行為じゃな」
「そうだな。生きているからには食べる」
「そうそう。食べないとね」
「生きていけないからね」
「絶対に」
それを妖怪達も話す。そしてだ。
一反木綿に塗り壁もだ。笑いながらこう話すのだった。
「食べて生きるばい」
「そういうことだね」
「だよね」
「その通り」
から傘に輪入道もその言葉に頷く。
「食べてそれによって」
「妖怪達も生きるからな」
「生きるのはいいがだ」
牧村はその彼等の姿形を見てだ。いぶかしむ声を出したのだった。もっと言えばである。その声を出さずにはいられないのであった。
「しかし」
「しかし?」
「っていうと?」
「どうやって食べている」
牧村はとりわけ一反木綿を見ている。見れば口がない。
「そしてどうやって消化している」
「あれっ、そういえば」
「どうやって食べてるかな」
「それにどうやって消化して」
「言われてみれば」
実はだ。彼等自身も理解していないことだった。
「ううん、考えてみれば」
「不思議なことだね」
「妖怪の身体ってどうも」
「不思議だな」
「生物学的にはじゃ」
博士が妖怪達のその身体について生物学的な見地から述べてきた。実は博士は生物学の分野においてもその名を知られているのじゃ。
「妖怪の身体は説明できんのじゃ」
「そうなのか」
「うむ、かなり滅茶苦茶な身体の構造になっておる」
こう牧村に話すのだった。
「内臓はしっかりとあるがな」
「おいどんにもばい」
「俺にもだ」64
一反木綿と輪入道の言葉である。
「だから生きているから」
「それは安心してくれ」
「どういう内臓の構造だ」
しかし牧村はまだ言う。
「謎だな」
「だからこの身体の中に」
「ちゃんとあるよ」
今度は塗り壁とから傘である。
「平べったいけれど」
「小さいけれどね」
「ものから妖怪になってもです」
ろく子も話してくる。やはり首が伸びている。
「内臓やそうしたものはありますから」
「心臓や脳もか」
「勿論あります」
そうだというのである。
「そうしたものはしっかりと」
「わかるが理解できない」
これが牧村の今の言葉だ。
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