第五十話 帰郷その九
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「戦争が終わってからの日本です」
「戦後日本の病床か」
「博士は違いますけれどね」
彼はというのであった。
「あの人はあれでも清潔ですし紳士ですよ」
「そうだよね。外見は怪しいけれど」
「それでもだよね」
「博士ってあれでね」
「紳士だよね」
妖怪達も話していく。
「温厚だし」
「気さくだしね」
「公平でもあるよね」
「それを考えると」
牧村もだ。彼等の言葉に同意だった。そのうえで言うのだった。
「あの博士は立派か」
「そう思うよ、案外ね」
「あんな怪しい外見だけれど」
「心はしっかりしているね」
「そうそう」
「ですから私も」
ろく子もまた言うのだった。
「秘書をさせてもらっています」
「秘書だったな。そういえばな」
「はい、そうなんです」
知的な笑みで首を伸ばしての言葉だ。
「ちゃんとお給料も貰ってますよ」
「八条大学からか」
「はい、学校職員の扱いです」
そうした扱いでだ。学校にいるのだった。
「ただ。お部屋は」
「それはどうなっている」
「僕達と同居だよ」
「皆一緒に色々なお部屋借りてね」
「それで生きてるんだ」
妖怪達が述べてきた。
「アパート一つ丸々借りてね」
「そうして生きてるんだ、この町にね」
「それでわしがじゃ」
子泣き爺であった。
「管理人じゃ」
「管理人だったのか」
「左様じゃ。意外じゃったか」
「そうは思わない」
これが牧村の今の返答だった。
「特にな」
「ふむ。左様か」
「その外見ならだ」
子泣き爺のその姿を見てである。確かに普通の老人に見えなくもない。
「術を使わずとも通じるな」
「それで不動産屋さんにも認めてもらったぞ」
「法的にもか」
「まあ戸籍とかはあれじゃが」
ここでは言葉を濁す彼だった。
「実際ではないがのう」
「妖怪に戸籍はあるのか?」
「無論ない」
当然だというのであった。
「そんなものはないぞ」
「そうだな。ある筈がないな」
「その通りじゃ。それはない」
また言う子泣き爺であった。
「だからその辺りは法的にはあれじゃが」
「実は違法か」
「そうなるのう。人間の世界では」
それを否定しない彼だった。そうしてであった。
今度はだ。砂かけ婆が出て来て言うのであった。
「わしも管理人じゃ」
「夫婦という設定か」
「そういうことじゃ。それはわかるのじゃな」
「すぐに察しのつくことだ」
こう答えた牧村だった。
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