第五十話 帰郷その五
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「頂くか」
「そうそう。美味しいし栄養がある」
「だからね」
「楽しく飲もう」
「それで食べようね」
「はい、それじゃあ」
ろく子がそのアップルティーとアップルパイをだ。牧村に対して差し出してきた。
「これです」
「早いな」
「今丁度またできたところでして」
「さっきから僕達で食べてるからね」
「飲んでるし」
また妖怪達が話してきた。
「それで全部飲んで食べちゃったから」
「また作ったんだ」
「それでなのか」
「そういうこと。だからだよ」
「今出て来たのはそれでなんだ」
「そうか」
牧村は妖怪達のその説明に頷いて答えた。
「事情はわかった」
「それで食べるよね」
「それで飲むよね、やっぱり」
「そうさせてもらいたい」
牧村はこう返した。そしてだった。
ろく子から受け取りだ。壁にもたれかかったいつもの姿勢でアップルパイを食べはじめた。皿は左手に持ち右手のフォークで食べる。
そうしてだ。一口食べ終えてから言うのだった。
「普通の林檎ではないな」
「アメリカの林檎を使っているんですよ」
ろく子がにこりと笑って答える。
「そっちを使いました」
「アメリカの林檎か」
「はい、それです」
「アメリカの林檎はどちらかというと紅玉に近かったな」
牧村はアップルパイをさらに食べながら述べた。
「そうだったな」
「御存知ですね、そのことは」
「知っている。成程な」
そこまで聞いて頷く彼だった。
「それでこの味か」
「林檎のお菓子にはこうした林檎がいいんですよ」
「林檎本来の味だからか」
「それで。そうしています」
「林檎も種類によるからな」
牧村はまた言った。
「それでだな」
「そうですね。それでなんですけれど」
「味か」
「はい。御気に召されたでしょうか」
ろく子は牧村に対して問うた。
「このアップルパイは」
「いい味だ」
これが牧村の返事だった。
「やはりアップルパイはこうした林檎だな」
「流石におわかりですね」
「アップルパイも作ったことがある」
だからだという言葉であった。
「それでわかる」
「成程。作られたからこそですね」
「何処かのグルメぶった似非漫画は嫌いだ」
牧村の最も嫌う漫画の一つだ。もっと言えば彼はその漫画の原作者はより嫌いである。そうしたことも言外に述べてもいた。
「それでだ」
「それで、ですね」
「しかしそれでも言う。林檎には種類がある」
彼が言うのはそのことだった。決して似非食通ではない。純粋に料理や食事について考えているからこそだ。彼は言うのだった。
「その中で菓子に使えるものは少ない」
「紅玉はそれを考えたらいい林檎ですね」
「味に癖があるがな」
それでもだというのである。
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