第五十話 帰郷その四
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「両方共。考えてあるから」
「有り難う」
「御礼はいいわよ。ただ」
「ただ?」
「たっぷりと食べなさい」
ここで我が子にこうも告げるのだった。
「いいわね」
「わかった。それではな」
「食べ物は美味しくて栄養のいいものをたっぷりと食べる」
母は言い切ってみせた。
「そういうものだからね」
「だからか」
「お母さんもそうしているから」
「たっぷりとか」
「ええ。ただ問題は」
母のことばが少し変わった。
「あんたとお母さんじゃ事情が違うからね」
「事情か」
「あんたは毎日激しく運動してるじゃない」
フェシングにテニス、それに対するトレーニングのことである。
「それに対してお母さんはね」
「そこまでの運動はか」
「してないから。あんたみたいには食べないわよ」
「そういうことだな」
「若しお母さんがあんたみたいに食べたら」
母の顔が冗談を言う時の笑みになった。
「一発で太るわよ」
「そうだな。カロリーでな」
「だから食べる量はあんたよりはずっと少ないわよ」
「しかし食べられるのか」
「量はね」
それはいけるというのである。
「いけるわよ」
「そうなのか。量はか」
「食べられるけれどあえて食べないの」
母の言葉がしっかりとしたものになる。
「そうしているのよ」
こんなことを話してだ。牧村と息子は久し振りの二人での食事を楽しむのであった。これが彼が帰った最初の日のことである。
そして次の日だ。学校に来てだった。
博士の研究室に入ってだ。ろく子と話をした。周りには妖怪達もいる。
「博士はか」
「はい、まだなんですよ」
ろく子はその伸ばした首を空中にゆらゆらとさせながら話した。
「まだ講義中でして」
「そうか。講義か」
「ですからまだです」
また言うろく子だった。
「こちらには戻られません」
「そうか、わかった」
「牧村さんの講義は」
「朝のそれで終わりだ」
午前でだというのだ。
「今日の講義はな」
「じゃあ午後は暇ですね」
「そういうことになるな」
「わかりました。それじゃあですね」
「ここで待っていていいな」
「はい、どうぞ」
ろく子は笑顔で牧村に対して答えた。
「じゃあお茶でも飲みますか?」
「お茶か」
「丁度ね。今ね」
「物凄く美味しいもの飲んでるんだけれど」
塗り壁とから傘が言ってきた。
「どう、アップルティー」
「美味しいよ」
「アップルパイもあるよ」
「そっちもね」
今度は雨降り小僧と河童が言ってきた。
「牧村さんもどう?」
「林檎のやつね」
「そうだな。それではな」
こう一呼吸置いてからだ。牧村は答えるのだった。
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